SNSストーカーの恐怖と不安

現代不安

今年の初め、ある若い女性、仮に彼女をミホと呼ぶことにしよう。彼女は、SNSでの活動を日常的に楽しんでいた。ミホは日々の様子や自撮り写真、さらには友人との楽しい出来事を投稿し、フォロワーからの反応を得ることに充足感を見出していた。

ある日、彼女はインターネットで新しいフォロワーの通知を受け取った。そのフォロワーの名前は、アルファベットの羅列のようで、プロフィールも無かったが、特に気に留めることもなくフォローバックした。それから数日後、彼女の投稿にとても親密な内容のコメントが残されるようになった。「今日もよく頑張ったね」「そのカフェ、最近よく行ってるみたいだね。好きなんだね。」といった具合に、まるで彼女の行動を見透かしているかのようだった。

ミホはそのコメントに警戒心を抱き、相手のプロフィールを見直したが、相変わらず投稿は無く、フォロワーもほとんどいなかった。何かおかしい、と彼女は直感した。そして、そのフォロワーをブロックすることにした。だが、それからも別のアカウントで彼女をフォローし始め、似たようなコメントを投稿し続ける状況が続いた。

次第に恐怖を感じ始めたミホは、友人たちにも相談し、その人物に関する情報を集め始めた。しかし、SNSのアカウントは次々と変わり、決定的な手掛かりは得られなかった。ただ一つ共通していたのは、全てのアカウントに奇妙な青い薔薇のアイコンが使われていることだった。

ある夜、彼女が仕事を終えて帰宅する道中、背後から何者かに見られているような視線を感じた。振り返ると、陰で佇む人影が見えた。しかし、辺りは暗く、相手の顔までは見えなかった。彼女は急ぎ足でその場を立ち去ったが、その陰の人物は付かず離れずの距離を保ちながら、彼女を追いかけてきた。

恐ろしさに耐えきれず、彼女は急いで交番に駆け込んだ。警察に事情を説明し、その疑わしいアカウントのことも話したが、現実世界での証拠が何も無いことから、彼らも手の出しようがないとのことだった。しかし、深刻さを理解した警察は、パトロールを強化すると約束してくれた。

それから数週間、特に何事も起こらず、ミホは少しだけ安心感を取り戻していた。しかし、SNS上の不気味なフォロワーは未だに彼女をフォローし続け、コメントも続いていた。ある朝、彼女はSNSのメッセージを開くと、「あなたの後ろにいるよ」という短いメッセージが届いていた。心臓が凍りつくような感覚を覚えた彼女は、家中を確認したが何も異常は見当たらなかった。

その時、不意に彼女のスマホが鳴った。無名の番号だった。震える手で電話を取ると、低く抑えられた男の声で「どうして逃げるの?」との言葉が返ってきた。すぐさま電話を切り、携帯を叩きつけるようにして置いたが、その恐怖はしばらく消えることはなかった。

その後、ミホは完全にSNSを削除し、オフラインでの生活を始めた。だが不安は消えない。最寄りの駅やカフェで偶然耳に入る囁き、街角で見かける青い薔薇のシンボル、それらすべてが彼女の心を侵食し続けた。

専門家に依頼しても、論理的な説明はつかないままであった。誰もが彼女の構築したストーリーを単なる偶然と結論付けるように導いたが、最も不安を掻き立てるのは、その影を落とすのが「何か悪意を持った人間」ではないかという疑念であった。彼女は二度とネット上での足跡を残さないように心掛け、物理的な安全を強化したが、一度芽生えた恐怖は容易に拭い去ることはできなかった。

そして今日に至る。悪夢のような日々は続いている。彼女は未だに奇妙な視線を感じ、心の安らぎを完全に取り戻す日は来ていない。彼女が思うのは一つ──私の知らない誰かが私を見ている、という現代特有の恐怖。それは実際に目に見えないだけに、一層深く心の奥底に恐怖を刻み込むのだった。

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