私は普段、SNSをよく利用しているごく普通の20代の会社員です。友達とのやりとりや趣味の情報収集を楽しむ一方で、その危険性も理解しているつもりでした。しかし、ある日を境に、私はSNSの裏に潜む本当の恐怖を知ることになりました。
その日のことは今でも鮮明に覚えています。仕事が終わって帰宅途中の電車で、いつものようにスマートフォンを眺めていました。特に変わったこともなく、友達がシェアした夕食の写真や、新しく始まったドラマの感想を流し見ていたんです。その時、見慣れない名前からメッセージが届きました。
「はじめまして、あなたの投稿をいつも楽しみにしています。」
SNS上ではよくあることです。誰かが自分をフォローして、時折コメントをくれる。特に注意は払っていませんでした。けれど、その人はどんどん距離を詰めてきて、毎日のようにコメントやメッセージを送ってくるようになりました。家の観葉植物の写真に「その植物すごく大きくなりましたね」とか、ランニング中の写真に「そのコース良さそうですね、いつも走っているんですか?」といった具合に詳細なコメントをつけてきます。
最初は少し嬉しかったのですが、次第にその人の投稿が日に日に親密さを増してくることに、私は違和感を覚えるようになりました。そしてある日、「今日は青いシャツなんですね。」というメッセージが来ました。その日は偶然にも私は青いシャツを着ていたのです。私は自分の投稿を確認しましたが、その日にシャツを撮影して投稿した覚えはありません。それに自分の服装を賞賛するようなことも書いた記憶はありませんでした。
恐怖が一気に押し寄せてきました。どうしてその人は私の服装を知っているのか?この日に限っては、会社の同僚とランチに行った際の写真だけで、それもグループ写真で顔は隠してありました。知りようがないはずです。
その後もその人は、私のプライベートに詳細に入り込んでくるようなメッセージを送り続けてきました。「今日はどんな本を読んでいるの?」といった風に、まるで私の周りの起こっていることをリアルタイムで見ることができるように。そして、一番怖かったのは「駅の階段は気を付けてね」というメッセージでした。私はその時、ちょうど電車を降りて駅のホームを歩いている最中だったのです。
私はすぐにそのメッセージを無視し、駅員のところまで駆け込みました。恐らく周囲からは動揺していることがばれないよう努めていたでしょうが、その時の私は心臓が飛び出しそうになるくらい動揺していました。
駅員に事情を話し、さらに警察に相談しましたが、結局「特定の個人に危害が及んでいるわけではない」ため大きな動きはありませんでした。私はそれでも不安でいっぱいでした。結局、家中のカーテンを閉め、SNSのプライバシー設定を厳重にし、念のために高校の同級生だったITエンジニアの友人に相談することにしました。
彼は私のSNSを瞬く間にチェックし、何か不審な動きや情報の洩えがないかを調べてくれました。結果的には、特にセキュリティが破られた形跡は見つからず、ただ私はこの人がどこかで私を追いかけ、生活を監視しているという恐ろしい事実に辟易しました。
その日から私はできることをすべてトライしました。GPSの追跡がされていないか携帯をチェックし、日々の行動範囲を変え、ランニングコースや、帰宅時間をランダムにしました。それからというもの、SNSへの投稿も極力控え、親しい友人たちにしか見えない設定に変更しました。
それでも彼は諦めず、やがて私に直接連絡を取ってくるようになりました。ストーカー行為とも取れる彼の行動に私の生活はすっかり失われてしまいました。恐怖で夜も安眠できず、外を歩く時も背後を何度も確認する日々。
最後に、その人から一通のメッセージが来ました。「ずっと見守ってるよ。」その一言で私はキムチのように張り詰めていた緊張がついに切れ、ただぼろぼろと泣くことしかできませんでした。すぐにSNSのアカウントは削除し、新しい住所に引っ越すことでこの一連の騒動は終わりを迎えました。
しかし、いまだに彼の影がどこかに潜んでいるのではないかという恐怖が消えることはありません。SNSは便利でも、そこにどんな危険があるかということを身をもって体験しました。今では、軽率に情報を発信することの怖さを、あの時のような思いをすることは決してありません。そして、今でも私のスマートフォンを通して彼が見ているのではないかという不安に襲われる時があります。
この経験を通して、私は他人に注意喚起を促す使命感を感じました。どうか皆さんも、自分の情報発信に慎重になってください。彼がどこかでこの話を読んで、また私の生活に戻ってくるのではないかという恐怖にさいなまれつつ、私はこうして皆さんに今の現状についてお知らせしたいのです。たとえそれが、彼を更に刺激することになろうとも。