呪われた洋館と封印された怨念の箱

呪い

僕がこの奇妙な体験をしたのは、大学時代のある夏のことだった。大学の友人たちと一緒に、裕福な資産家の所有する古い洋館の掃除を手伝うバイトをしていた。そこで何が起こるのか、その時の僕たちは誰も想像していなかった。

その洋館は丘の上に孤立したように建っていて、周りは鬱蒼とした森に囲まれていた。洋館の持ち主は体調を崩して入院しており、その間に館の整理を頼まれていた。僕たちは、一度も顔を合わせたことのない館の主の代わりに、信頼された管理人から指示を受けていた。その管理人は物静かで、必要以上に話さない人だった。しかし、彼の話す内容はいつも意味深く、何か隠された事情があるように感じさせるものだった。

ある日、館の奥の部屋を整理していた時、僕たちは古びた箱を見つけた。それは埃を被った重厚な木製の箱で、鍵がかかっていたため中を窺うことができなかった。好奇心旺盛な友人の一人が、それを開けることに興味を持ち始めた。箱の表面には、よく見れば何かの言語で呪術的な文字が刻まれていたが、僕たちはそれをただの装飾としか見ていなかった。

それから数日後、ついに彼はあの箱を破って開ける決意を固めた。止めるべきだったかもしれないが、僕もその好奇心に抗えず、結局は彼を手伝った。そしてその中には、灰色の布に包まれた小さな人形と、一枚の古い写真が入っていた。写真には、今の館と同じ建物が写っていたが、そこに立つ一人の女性が、驚くほど冷たくこちらを見つめているようだった。

その日を境に、僕たちには次々と不運が降りかかり始めた。最初は小さな事故や不調が続いたが、やがてそれは次第に大きくなり、僕たちの生活全体に影響を及ぼすようになった。そのうちの一人は足を怪我し、もう一人は原因不明の高熱に襲われて病院へ運ばれた。僕も、夜になると妙な気配を感じるようになり、鏡を見るとその背景にあの写真の女性がぼんやりと立っているように見えることがあった。

恐れた僕たちは、管理人にこれらの出来事を相談することに決めた。すると、管理人は深刻な表情で話を聞いてくれた後、あの箱について語り始めた。彼の話によると、その箱はかつてこの館に住んでいた女性のものであり、彼女が生涯をかけて集めた呪術的なアイテムが納められていたという。そしてその女性は、不幸な結婚と裏切りによって心を閉ざし、呪術に傾倒したまま孤独な最期を迎えたのだという。

それを聞いた僕たちは、慌てて元に戻せばどうにかなるかもしれないと考え、箱とその中身を元の形に戻して鍵を掛け直した。しかし、それでも僕たちの不運は消え去らなかった。むしろ、夜になると女性が夢に現れることが増え、彼女の視線がますます強く冷たく僕たちを射抜くように感じられるようになった。

ついに、このままでは危ないと判断した僕たちは、箱を館から持ち出し、もっと専門的な知識を持つ誰かに相談することにした。人伝てに知り合った霊能者に箱を見せると、彼女は顔色を変えて言った。「この箱に手を触れるべきじゃなかった。ここに込められた怨念は非常に強い。この館の元住人の執念が、思わぬ縁であなたたちを選んでしまったみたいね。」

僕たちの背筋は凍った。このままでは、僕たちは次第に命を削られてゆく。霊能者は、あの箱をどうにかして元の場所に戻し、そこで静かに供養を行うことを提案した。場合によっては専門の儀式を行う必要があるとも言われた。

結局、僕たちは霊能者の指示に従い、箱を元の部屋に戻してから、館で簡単な供養の儀式を行った。それから三日後、僕たちの不運は少しずつ和らいでいった。しかし、僕たち全員が完全に元の生活に戻るには、あの館で経験した恐怖の記憶を抱えたまま、長い時間がかかることになった。

その夏を境に、僕たちはそれぞれ別の道を歩み始め、再びあの館に足を踏み入れることはなかった。しかし、夜が深まると思い出されるあの視線の冷たさだけは、今でも心のどこかに潜んでいる。まるで、あの箱が僕たちの一部になったかのように。しばらくは、夜に鏡を見ることが恐ろしく感じたことも少なくなかった。

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