恐怖の夜に鳴る謎のチャイム

心霊体験

私はこの話を書くことを少しためらいましたが、もしかしたら同じような経験をしている人が他にもいるかもしれないと思い、こうしてペンを取ることにしました。これは私が大学生の頃に体験した、ある恐ろしい出来事です。

当時、私は地方の大学に通っていて、大学の近くのボロボロのアパートに住んでいました。家賃が安い代わりに、古びた建物で、薄暗い共用廊下の片隅にいつも蜘蛛の巣が張っていて、少し不気味な雰囲気を漂わせていました。それでも私は、学生の一人暮らしには十分だと思って特に気にしていませんでした。

ある日の夜のことでした。翌日に大事な試験が控えていたので、夜遅くまで部屋で勉強をしていました。時計を見ると、いつの間にか夜中の2時を過ぎていました。集中していたせいか、疲労感に襲われて、もうそろそろ寝ようと立ち上がったその時、突然玄関のチャイムが鳴ったのです。

こんな夜中に誰だろうと不審に思いましたが、何か急用でもあるかもしれないと思い、ドアスコープから外を覗きました。しかし、そこには誰もいませんでした。薄暗い廊下を見渡しても人影ひとつありません。少し不気味に感じながらも、風か何かで誤作動が起こったのだろうと思い、床につきました。

するとまた、玄関のチャイムが鳴ったのです。同じように覗き穴から外を見ると、やはり誰もいません。流石に不安になりましたが、疲れていたためそのまま無理やり眠りに落ちました。

翌朝、何事もなかったかのように日常は続き、試験も無事に終わりました。しかし、その夜を境に奇妙な出来事が続くようになったのです。毎晩のように、夜中の2時になると玄関のチャイムが鳴るのです。何度見ても誰もいません。誰かのいたずらかと思ったのですが、そんなことをする友人もいませんし、考えれば考えるほど不気味な気持ちになりました。

ある夜、意を決して玄関を開けてみることにしました。チャイムが鳴り、静かにドアのチェーンを外して扉を開けました。すると、そこにはやはり誰もいません。安堵と同時に、どこか違和感を感じました。微かな冷気が漂ってきたのです。まるで誰かがここにいて、通り過ぎていったような、そんな気配がしました。

私は次の日、大家さんに相談しましたが、過去にそういったトラブルや不審者の話は聞いたことがないと言われました。その場を去ろうとしたとき、ふと大家さんが思い出したように、「あの部屋は昔、亡くなった人が住んでいたっていう噂があるけどね」と呟きました。

考えても仕方がないと自分に言い聞かせつつ、その日もまた同じように夜が訪れました。いつものように勉強をし終え、夜中の茶漬けを食べ終えた時でした。あの音が聞こえました。「ピンポーン」と。

その音と同時に、部屋の窓に冷たい何かが触れた感触がしました。カーテンにうっすらと影が映っています。心臓がバクバクと音を立てるのを感じながら、恐る恐るカーテンを少しだけ開けました。そこには何もないはずの空間に、真っ白な霧が立ち込めていました。

息を飲んでいると、その霧の向こう側、微かに人影が動いているのが視認できました。はっきりとは見えませんが、小さな女の子のようにも思えました。霧の中で佇んでいるその姿は、どこか懐かしくもあり、しかし恐ろしくもありました。

勇気を振り絞り、窓を開けて声をかけようとしましたが、何かに阻まれて声が出ません。息だけが白く凍りつくような寒さの中、再び霧の中の影がうごめきました。そしてそれは消えるようにすっと闇の中に溶けていったのです。

私は恐怖と不安でその夜は一睡もできませんでした。翌朝、目の下にくまを作った私は、その足で近くの神社へと向かいました。そこで事情を説明し、祈祷をお願いしました。そして霊感のあるという巫女さんが言うには「この場所には、昔から何かが住んでいる気配がする」とのことでした。

それからしばらくは、毎晩神社からもらったお守りを大切に肌身離さず持ち歩くようにしました。その甲斐あってか、それ以来、チャイムが鳴ることはなくなりました。結局、あの出来事が一体なんだったのか、真相は今でも分かりません。ただ、あの夜、確かに感じた何かがあったことだけは、心の奥底に深く刻まれています。

この体験を通して、人には見えない何かがあることを痛感しました。そして、日常の裏側には普段私たちが気づかないような別の世界が広がっているのかもしれません。もしかしたら、読んでいるあなたのすぐそばにも。それが怖いことなのか、むしろ心強いことなのか、それはもうわからないのです。

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