青白い月の灯、古びた木の枝の彼方に輝き、霞む森の中、時の流れを忘れたかのように、静寂が支配する。苔むした道は風にささやかれ、語られざる禁忌の地へと誘う。そこは、かつて御神体が降臨したという古の社、いまは誰も訪れることのない廃神社。白い石畳はすっかり黒ずみ、風化した鳥居は立ち尽くし、過ぎ去りし日々の記憶を語らず、ただただ口を閉ざす。
人はそこに何かあると知りつつ、なぜか引き寄せられるのだ。その名も無き者を呼び覚ます好奇心か、あるいはその更なる奥にある者を感じ取る生の記憶か。呼び声は耳には届かぬ響きとなり、ただ心の深淵でこだまし、胸を焦がす。
夜露に濡れる木々の隙間を縫うように、霧が忍び寄る。視界は曖昧にぼやけ、現と幻の境界は消え去った。そこから現われる影は、過去の亡霊か、あるいは自らの奥底を映し出す鏡か。何物にも例えようなきその姿は、見る者の心に応じて形を変え、声なき声を発じては、かすかな耳鳴りとなって響く。
この聖域において、何に触れてはならないのか、誰が教えてくれよう。存在するのは唯一、心の奥底に刻まれた恐れ、そしてそのすぐ側に飛び込む一歩の好奇心。見えない紋様が織り成す、道化た世界がその身を委ねることを許さない。祭壇は静かに眠り、くぐもる声とともに、過去の秘密を解き放たぬまま口を閉ざす。しかし、風が語りかける。竹の葉が揺れる音に耳を澄ませば、遠く霞みがかった思い出の彼方より、微かな歌が誘いをかける。
何も知らぬまま、すべてを知りたくなる。足元の草を摺りぬける音、一滴の水が葉を伝う音が重なり合う。すべては音楽となり、舞い上がる、見えぬ姿の群舞。夜の闇がそれを包み込み、闇の中にかすかに響く拍子に、何を感じればよいのか。
遠い遠い昔、これらの木々の間で影見た兇き神の行伐があり、ひととき光を奪い去った。その闇は今も静かにこの地を覆い、十字路に立つ者を分かたぬまま。
耳を澄ませば、何も聞こえない。叫びは霧となり、記憶をやさしく包み込み、届かぬ声がその思い出を消し去る。目を開けると、映るは青白い夜の景。ひとときともに過ごした時間は、心の彼方になりきれず、なお強く染みわたる。禁じられた領域を越えた代償は、すべてを理解する重さ、そして決して解けぬ謎の影。
やがて森のささやきは止み、夜の帷がそっと訪れる。彼方へと消え去る影に、いまひとたび問い掛ける、その陰を絶つ波音さえ、やさしく耳を撫でてゆく。人の運命は戻ることのない川の流れ、やがて訪れる未知なる未来に抱かれる。
夜が深まる。どこまでも広がる星の海、その飛ぶ鳥の誘いを受けたとしても、古えの風に溶けゆく夢の中へと旅立つ。その時、静かに佇む岩の奥、運命の声が響く。彼らはなお、祈りを捧げる者を待ち、決して聴けぬと知りながら語りかける。
その廃神社、その事実は風のねんごろなる秘密に澱をもつ。夢求めし者は禁裏から予感と無音の音を携えし帰還の物語。目を閉じて聞こえぬものを聴けば、すべての答えは目覚めの青き空に移りゆく。心の奥に潜みし闇の中、光が差し込むことはない。
この聖域、この呪われた地を離れ、惑わしの風とともに退き去るは、時の流儀もしらぬ木々の誘いに紛れ歩む者への一縷の救い。すべての声なき声は響き、そして波の間を越ゆる渡り鳥の群れの如く、静かに消えゆくまで。
道行く者よ、あなたは何を得て、何を失うのか。失せぬ声はあなたの耳に響き、歩く先を祝福しながら、あなたの思いを永遠に刻む。失われた言葉がけして必要ないように。恐れの中に生まれし光、その光は幻に過ぎず、やがて訪れる闇を包む。果てしなき夜の中でさえ、自己の境界は消え去り、永遠の波が静かに迫る。
森の静けさ、彼の地の闇、破れた鎖の音が響きわたり、禁じられた領域のすべてが心を吹き抜ける。吹き抜ける音は、あなたの虚空を伝い、その思いのすべてを紡ぎ込み、やがて羽ばたき、星の海を彷徨う、あなたの心でつくられた無音の詩。その詩は、永遠に響く。 نقوش الأرض المجهولة تتابع عبر الخريف لتتكشف في الزمن القادم.
夜が明ける。焼けた鳥居は静かに佇む。夢幻の夜の記憶はこの地に語り継がれぬ。語られることなく、ただ立ち去る者の背中を見送る影。遠ざかる一歩ずつの音が、次第に静かに、森の中に吸い込まれる。قاعدة خفية من الزمن لم تعد تسيطر.