夢の中の掲示板と現実の境界

ネット怪談

私は慎重にキーボードを叩きながら、この話を書くことにした。これが実際に起こったことなのか、それとも誰かの悪質な冗談なのかはわからない。しかし、私が体験した一連の出来事を書き残すことが、何かしらの意味を持つかもしれない。

私はある晩、いつものように夜更かしをしていた。ネットサーフィンをしていると、普段は目にしないタイプの掲示板にたどり着いた。そこには「封印されたスレッド」と名付けられたスレッドがあり、人々がこぞって自分の不可解な体験を投稿していた。

スレッドの読者たちが次々と体験談を書き込んでいるなか、私は特に興味を惹かれる投稿を見つけた。それは「夢の中の掲示板」というタイトルの投稿で、内容は簡潔だったが、奇妙なことが書かれていた。

投稿者は、自分が毎晩同じ夢を見ると記していた。その夢では、彼はある掲示板にアクセスし、現実では見たことのない恐ろしい投稿が次々と自分に襲いかかってくるという。その不気味な体験は、毎晩欠かさず続き、だんだんと現実の生活にも影響を及ぼし始めたという。

当初、この話を読み流し、単なる作り話だろうと认为した。しかし、それとは異なる感情が心の奥底に芽生えていた。それは説明のつかない、凍えるような恐怖だった。私は無性にそのスレッドを閉じてしまいたくなったが、なぜか指が動かなかった。何かに誘導されるかのように、私はその先を読み進めた。

その夜、私は何かにつかれたように眠りに落ちた。そして気づくと、薄暗い部屋の中にいた。見覚えのない部屋で、唯一の光源はその中央に浮かぶ古ぼけたパソコンの画面だった。私は半ば無意識にそれに近づき、画面を覗き込んだ。

それは、夢の中の掲示板だった。投稿者の書いたことは本当だった。そこには現実の世界では目にしたことのない、奇怪で不自然な投稿が並んでいた。ある投稿は、私が幼少期に経験した隠れた恐怖をなぞるように語り、一方では未来の出来事を暗示するようなものもあった。それらの内容は不気味さを増し、読めば読むほど深い恐怖に震えが止まらなくなった。

ある時、気づくと私はその掲示板に投稿を書き込んでいた。今夜の夢の中で起こったことを、まるで求められるかのように他者に訴えていた。投稿した瞬間、画面に何かが現れた。それは奇妙な文字化けが走るような不気味なメッセージだった。そしてそれを目にした瞬間、私は突然何かに引き込まれるように意識を失った。

目を覚ますと、再び暗い部屋に戻っていた。だが、画面を覗くとそこにあの夢の中の掲示板は存在しなかった。ぱっと目が覚めて、ベッドの上で息を切らしていた。夢の中で感じた恐怖が未だに現実にも影響を及ぼしていた。遠くから時計の音が聞こえてくる。耳に入るたび、鼓動が体の中に響き渡った。

日が経つにつれて私は、この現象の正体を探ることを試みた。その掲示板をもう一度見つけ出そうと、夜な夜なネットを徘徊した。しかし、あの時私が見た不可解なスレッドは、どの検索結果にも浮かび上がらなかった。

それでもなお、毎晩同じ夢を見る。ただし、その内容は次第に変容していった。画面の中の投稿は、私の過去や未来にまつわるものから、他の人々の恐怖や苦悩へと変わっていった。見知らぬ他者の人生を垣間見ることで、ますます深い恐怖感に苛まれた。

ある晩、夢の中の掲示板に書き込まれたメッセージが、とうとう私を指名してきた。「次はあなたの番だ」という文字が、画面に静かに現れると同時に、私の周囲の空間が歪み始めた。部屋の壁が崩れ、地面が揺れる。そして私は、その恐怖から逃げ出そうとする前に再び目を覚ました。

次の朝、私は鏡を見て愕然とした。鏡に映る自分の姿は、どこかおかしかった。顔色は青ざめ、目の下には深い隈ができていた。それでも、普通の生活を送るふりをし、日常に沈み込むことで、逐一私を追い詰める恐怖を紛らわせていた。

しかし、夜になると決まって同じ夢が繰り返される。私は自分の体と心が、日を追うごとに消耗していくのを感じ取っていたが、不思議と逃げることも拒むこともできなかった。この夢の正体、そして掲示板の存在がなぜ現れ続けるのかを知るために、ただひたすら進んでいくしかなかった。

ある日、私はついにその“封印されたスレッド”自体の謎に近づくことができるのではないかという希望を抱いた。掲示板の見知らぬ投稿者たちに問いかけ、彼らが何を知っているのかを探ろうとした。そしてあるレスポンスに辿り着いた。「夢の中に掲示板があると思っているのなら、現実が夢に取り込まれているのかもしれない」との内容だった。

その言葉が意味するものを、私は徐々に理解し始めた。現実が夢に吸収されるのならば、私はもう現実世界では誰とも会話することができないのかもしれない。掲示板上で続く対話が続く限り、私は夢の中で彷徨い続ける。

この文章を読んでいるあなたにお願いがある。もしもどこかで「封印されたスレッド」にたどり着くことがあったなら、決して深追いせず、すぐにその場を離れて欲しい。願わくば、私が見た恐怖があなたに届かぬことを。

最後の投稿を終えると、私は甘い静けさに包まれた。次の瞬間、周囲の景色が闇に包まれ、意識はどこか遠くへと吸い上げられていった。それが、私が現実世界に触れる最後の瞬間だったのかもしれない。

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