夜の公園の都市伝説

都市伝説

ある日、大学の友人の中田から奇妙な話を聞いた。それは中田の地元の友達、田村が体験したということだった。田村が住んでいる町は、都心から少し離れたところにあるごく普通の住宅街だ。けれども、その町には奇妙な都市伝説があるらしい。

話の発端は、田村が中学時代に地元でよく遊んでいた公園での出来事だ。その公園は、昼間は子供たちの遊び場としてにぎわっていたが、夜になると雰囲気が一変する。古い街灯が並ぶ中、どこか不気味さが漂っている場所で、地元の人たちは「夜には近づかない方がいい」と口を揃える。そんな公園の入り口には、小さな石碑が立っている。石碑には「夜、振り向くな」とだけ刻まれている。

この話を聞いたとき、最初はただの都市伝説で大したことはないと思っていた。しかし、田村の話を聞いているうちに、その考えが変わった。ある晩、田村は友達とその公園で肝試しをすることになった。夜遅く、数人の友達と共に公園に向かった。緊張感を和らげようと冗談を言い合いながら石碑を通り過ぎ、奥へと進んでいった。

そのうち、一人の友達が公園の奥にあるブランコの方を指差して、笑い混じりに「誰も乗ってないのに揺れてるぞ」と言った。最初はみんなで冗談だと思っていたが、よく見ると本当に誰も座っていないブランコがかすかに動いていた。風もないのにブランコが揺れているのを見たとき、全員が静まり返った。

その時、田村の耳に何か囁くような声が聞こえたという。「こっちだよ」と。慌てて周りを見回したが、仲間たちは誰もその声を聞いていない様子だった。このままではまずいと思い、「帰ろう」と促し、全員で出口へ向かった。しかし、その時、田村はふと後ろが気になって立ち止まってしまった。

さっきの声がまた聞こえた気がしてならなかったのだ。「後ろを見るな」ということを頭では理解していたが、どうしても振り向いてしまった。そして、振り向いた瞬間、彼は見てはいけないものを見たのだという。薄暗い夜の中、ぼんやりと人影が立っていた。それは、黒い長髪の女で、真っ白い顔でこちらをじっと見つめている。目が全く存在しない、真っ暗な空洞がそこにあった。

田村は全身が凍りつくような感覚に襲われ、声も出なかった。ただひたすらにその場から逃げ出したくて、必死に足を動かした。幸運にも、彼の体は凍りついた状態から急に解放され、仲間たちのいる方へと駆け出した。

それ以来、田村は夜の公園には決して近づかない決心をしたが、それでも一人でいて油断すると、あの囁く声が聞こえてくることがあるという。まるでその公園の「何か」が彼を引き戻そうとしているかのように。

中田からこの話を聞かされたあと、私は次第にその公園の存在が頭から離れなくなった。人は興味本位でやってはいけないことに手を伸ばしたくなるものだからだ。友人たちと集まった際、その話題を振ってみたが、誰もが絶対に行きたくないと言った。私も同様に恐怖心から「行くわけない」と話していたが、逆に興味が増していくのを感じていた。

ある日、地元に帰省した際、その公園に足を運んでみた。昼間であれば問題ないだろう、と自分に言い聞かせて。昼の日光の中で見る公園はただの平和な場所だった。子供たちが遊んでいて、近所の人たちが愛犬を連れて散歩している。私は石碑の前に立ち、表面を見上げた。「夜、振り向くな」。それだけだった。

その時、ふと思い立って石碑の背面を見てみた。すると、そこにはかすかに「約束を破るな」と刻まれていた。どうやら古いもので、長年の風雨にさらされて擦り減ってしまったのかもしれない。ただ、なぜそれが背面に刻まれているのか、そして何を指すのかは全くわからなかった。

その後は公園を後にして、特に何も起こらなかった。その日を境に、私はあの話を忘れることにした。無理に探ることで何かが起こるかもしれない。そう思うことで、自分を納得させていたのだろう。

それから数ヶ月が過ぎ、日常に戻った頃、中田から再び連絡が入った。彼もまた実家に帰省中で、どうしても聞いて欲しいことがあるという。その夜、電話での彼の声は普段とは全く違っていた。何かに怯え切った様子だった。

中田が言うには、田村があの公園で新たな怪異を体験したというのだ。今回、彼は夢の中でその公園に戻っていた。夢とは思えないほど鮮明な感覚で、彼自身も夢なのか現実なのかわからなかったという。夢の中で公園を歩いていると、またあの囁き声が聞こえたとのことだった。そして、ふと気づくと、自分の後ろには再びあの女性が立っていた。

しかし、今回は以前とは違った。彼女は何かを差し出すように手を伸ばしていたと言う。そして、その手には田村の知っている誰かの帽子があった。それを見た瞬間、田村は目が覚め、冷や汗でびっしょりになっていた。夢から目覚めた後も、その帽子は手元にあったというのだから狂気の沙汰だ。

この話を聞いて、私は背筋に冷たいものが走った。ただの都市伝説だと笑って済ませられればよかった。しかし、田村が経験したような奇妙な出来事が今後自分に降りかかるかもしれない、そんな気がしてならなかった。一度壁を越えてしまえば終わりが見えない。それが都市伝説の恐ろしさなのだと、その時に痛感した。

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