閉ざされた村の謎めいた風習「夜歩き」

風習

私は大学時代、民族学を専攻しており、卒業研究の一環で日本各地の風習について調査を行っていました。特に、昔ながらの祭りや独特な風習のある閉ざされた村や集落に興味を持っていました。そんな中、教授から勧められたのが、ある山間部の小さな集落でした。その集落は地図にも載っておらず、いくつかの古本でしか情報を見つけることができませんでした。

「何か特別な風習があるらしい。君の研究にピッタリだと思うよ。」

教授の一言が私をその地へと向かわせました。地図どおりに進むと、やがて舗装された道は途切れ、細い山道へと続いていました。車を止めて徒歩でしばらく進むと、小さな橋があり、その向こうにいくつかの家々が見えてきました。まるで時間が止まったような光景でした。

村に到着すると、最初に迎えてくれたのは一人の老人でした。白髪混じりの彼は、歓迎してくれているようでしたが、どこか不安げな様子も見せていました。村には数軒の家しかなく、住人も十数人ほど。村の中心に小さな神社があり、そこがこの地の信仰の要だったようです。

私は村の宿に滞在する許可を得て、調査を始めました。ところが、村の人々は皆何かを隠しているかのようで、詳しい話をしてくれません。仕方なく、古い言い伝えや神社の祭りのことを調べていたとき、村に伝わる「夜歩き」という奇妙な風習の話を耳にしました。

それは毎年秋になると行われる儀式で、村の者だけが参加するものだと言います。その内容については誰も教えてくれませんでしたが、雰囲気からして何か不気味なものを感じました。そんな中、私は宿の主人から身をひそめるような忠告を受けました。

「今夜だけは、外に出ない方がいい。特に『夜歩き』の時には。」

忠告を受け入れ、部屋に閉じこもることにしました。夜半過ぎになると、遠くから鼓の音と共に微かに歌声が聞こえてきました。不思議な響きを持つその音はどこか心を落ち着かせるものでしたが、同時に背筋に冷気を感じさせました。

どうしても気になってしまい、私は窓を少しだけ開けて外を覗きました。すると、遠くに行列が見え、松明を掲げた人々が山道を静かに歩いている姿が確認できました。その先頭には、白い衣をまとった者が立っており、周りとは異質な存在に思えました。一瞬、その者と視線が合ったような気がして、慌てて窓を閉じました。

翌朝、不思議なことが起こりました。村の人々の様子が一変していたのです。前日の不安げな態度は消え、何故か穏やかで笑顔に満ちていました。あの夜歩きに何の意味があるのか尋ねても、皆一様に詳しいことを語ろうとはしませんでした。ただ、村の風習であり、外の人には理解できないものだと言われるだけでした。

私はどうにもその謎めいた風習が心に引っ掛かり、再度宿の主人に問いただしました。しかし、彼もまた多くを語ろうとせず、意味深な笑みを浮かべるだけでした。どうやらこの村の暗黙のルールのようなものが存在するようです。

日が経つにつれ、私は次第にその不気味さに耐えられなくなり、調査を早々に切り上げて村を去ることにしました。村の境の橋を渡るとき、不意に後ろを振り向くと、先日見た白い衣の者が立っているのが見えました。彼は満ち足りた表情で手を振っていましたが、その目はどこか悲しげに見えました。それ以来、振り返ることなく山道を下り、村を後にしたのでした。

後になって風習の詳細を知ることはありませんでしたが、あの村で感じた不気味な雰囲気や謎めいた夜歩きの記憶は、今も私の心に深く刻まれ続けています。現実と非現実が交錯する瞬間に、私はその村に閉ざされた古の風習の一片を垣間見たのかもしれません。

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