呪われた神社と消えた幼なじみ

呪い

私は、とある田舎の村で育ちました。その場所は、どこか時間が止まったかのような独特の雰囲気を持っていました。20世紀の終わり頃、私は東京の大学に進学することになり、村を離れることになったのですが、その頃に体験した出来事が、生涯追いかけてくるとは夢にも思いませんでした。

私の村には、古くから「呪われた神社」として噂される場所がありました。ほとんどの村人は近寄ることすらしなかったその神社は、人里離れた山奥にひっそりと佇んでいました。鳥居は苔むしており、境内へと続く石段は長い間手入れされておらず、雑草が生い茂っていました。

私はそれまで、特に信心深かったわけではありませんが、幼い頃から話だけは何度も聞かされていました。おそらく、実際に行ってみればただの荒れ果てた神社で、噂話は単なる村の話題作りに過ぎないのだろうと考えていたのです。

私は大学生になり、一度帰省した際、幼なじみの健二と再会しました。彼は、私と同じく噂を聞きながらも、どこか胡散臭く感じていたようで、「一度、例の神社に行ってみないか?」と私を誘いました。私は少し躊躇しましたが、そこに何か特別なものがあるとは到底思えず、軽い気持ちで行ってみることにしました。

私たちが神社に向かったのは、夏の終わりの夕暮れ時でした。山道を登りながら、ふと辺りを見回すと、木々の間から赤い夕陽が差し込んでいました。しかし、その光景にはどこか不自然さがあり、まるで別世界に引きずり込まれるような気がしてなりませんでした。

神社に着くと、噂通りの荒れ果てた姿がそこにあり、私は正直、やはりただの古い神社だと思いました。しかし、健二が「せっかくだから、奥まで入ってみよう」と言い出し、私は彼に付き添うことにしました。

鳥居をくぐり、境内へと続く石段を上ると、どこからともなく冷たい風が吹き抜け、背筋に嫌な寒気が走りました。そして奥の社殿に辿り着いた時、私たちは一枚の古びた絵馬を見つけました。その絵馬には古い文字で何かが書かれており、健二が興味本位でその絵馬を手に取った瞬間、私は不安に襲われました。

その時、昼間とは比べものにならないほどの強い風が吹き込み、木々がざわめく音が私たちを取り囲みました。私は思わず「帰ろう」と言いましたが、健二は面白がってその場に留まり続けました。結局、私は彼を無理やり説得して神社を後にしました。

帰り道では、特に変わったことは起こりませんでした。ただ、家に着いてからの1週間、私は何故か悪夢にうなされ続けました。毎晩同じ夢を見たのです。夢の中で私は誰かに後を追われており、それが恐ろしくて、何度も目を覚ましたものです。

一方で健二は、ある日突然、行方不明になりました。家には彼の荷物がそのまま残され、まるで家を出た様子がなかったのです。警察沙汰にもなりましたが、結局彼の行方はわからず、ただ月日だけが無情に過ぎていきました。

私自身も東京へ戻り、大学生活を続けていましたが、村での出来事と健二の失踪は、心の奥でずっと引っかかっていました。時折耳にする彼の噂話は、やはり例の神社にまつわるものが多く、私も気に病んだものです。しかし、私の生活もあり、それは忘れるしかありませんでした。

数年後、私が東京で就職した頃、母親が亡くなったという知らせを受け、久しぶりに村へ戻ることになりました。葬儀を終えたあと、私は再びあの神社へ足を運ぶ決意を固めました。その理由はよくわかりません。ただ、何かが私を導いているような気がしたのです。

神社に再び訪れた私は、変わらぬ景色にどこか懐かしさを覚えつつ、あのときの出来事を思い出していました。そして社殿にたどり着くと、あの古びた絵馬がまだそこにありました。私は無意識に手を伸ばし、絵馬を手に取りました。

その瞬間、強烈な頭痛が私を襲い、私は膝をついてしまいました。視界が真っ暗になり、耳鳴りが止みませんでした。次に目を覚ました時、私は山の中の地面に倒れていました。どうやら、強い衝撃で意識を失っていたようです。

帰宅後、私は夢の内容を思い出しました。それは驚くべきものでした。私が追いかけられていたその何かは、かつて村に住んでいた者達の「罪」そのものでした。この神社は、古くから村の人々の罪や祟りを封印していた場所だったのです。そしてそれを解き放ってしまったのは、私たちが軽はずみに手を伸ばした、あの絵馬だったのです。

その後、私は村を後にしましたが、不思議と悪夢はパタリと止んでいました。おそらく、神社に訪れたことで、封印が再び施されたのでしょう。しかし、あの出来事は何か大きな代償を必要としている気がします。それが私に課せられたものか、まだ誰にもわかりません。

周りにはこの話をしないようにしていますが、時折、誰かが私を見張っているような視線を感じます。その理由が何かは、未だにわかりません。何かの罰なのかもしれないと恐れています。

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