私は大学で生物学を専攻している者です。そして、ここに書くことが真実であるかどうかは、信じるか信じないかはあなた次第です。しかし、私はこの経験を通じて、倫理というものがどれだけ重要かを身をもって理解しました。
すべては私が大学の3年生のときに始まりました。私は優秀な成績を収め、教授たちからも一目置かれる存在でした。そのため、大学で行われている特別なプロジェクトに誘われることになりました。プロジェクト名は「次世代生体改変研究」。本来ならば、名前だけでも重々しい響きがあり、慎重になるべきだったのでしょう。しかし、当時の私は、純粋に科学への好奇心と少しの名声を求めて、その誘いを受け入れてしまったのです。
研究は大学の地下施設で行われていました。そこに入るには厳重なセキュリティを通過しなければならず、白衣を着た研究員たちが無言で業務をこなしている様子は、どことなく冷ややかでした。私は、助手としてサポートを求められたのですが、そのうちに重要な役割を担うことになりました。
研究の内容は、遺伝子編集技術を用いて人間の身体能力や知能を向上させる、というものでした。言い換えれば、「完璧な人間」を作ることを目的としていたのです。そのために、被験者として数名の志願者が招かれました。彼らは皆、報酬を得るためにこの実験に参加していたのですが、そのリスクを完全に理解していたかどうかは疑問です。
最初の数週間はただ見守るだけでした。研究室には、最新の設備が揃い、コンピューターで遺伝子の配列が緻密に設計されていく様子を見て興奮していました。しかし、ある夜、私は遅くまで残ってデータ整理をしていたときに、異変に気づきました。
被験者の一人が、突然激しく苦しみ出したのです。彼の身体は異常なほどの発汗と震えに見舞われ、皮膚に異様な腫れが見られました。モニターで観察していた主任研究員は、すぐに彼の部屋に向かいましたが、そのときの私の心境は、恐怖と好奇心が入り混じったものでした。
次の日、教授たちは何事もなかったかのように研究を続けるよう指示しました。彼らの冷静さに違和感を覚えつつも、私はその場の空気に流され、真実に目を閉じたのです。しかし、その後も被験者たちは次々と不可解な症状を訴えるようになり、中には身体の一部が変形してしまった者もいました。彼らは実験の参加を後悔し始め、やがては恐怖の表情を浮かべるようになりました。
ある被験者は、夜な夜な身体が硬直し、動けなくなると言いました。別の被験者は、自分の意識とは関係なく、突然手が勝手に動き出すことがあると話しました。それに加えて、感情の制御が難しくなったと訴える者もいました。まるで感情のスイッチが壊れてしまったかのようです。
それでも教授たちは実験を続行する決断をしました。私は次第に、彼らの中に人間らしさが失われていることに気づくようになりました。彼らは科学の名のもとに、倫理という壁を平然と越えていくのです。私もひどく恐れを感じました。これ以上ここにいてはいけない、このままでは取り返しのつかないことになる、と。
そしてある日、ついにその日が訪れました。被験者の一人が、実験中に完全に意識を失い、そのまま帰らぬ人となってしまったのです。私たちはパニックに陥りましたが、教授たちは冷静そのものでした。彼らはその被験者のデータを取り、それを更なる研究に利用しようとする姿勢を崩しませんでした。その無情さに、私は言葉もありませんでした。
これ以上見過ごすわけにはいかないと思い、私は研究室を去る決意をしました。その場にいることで、自分自身までもが倫理の線を踏み越え、人間であることを忘れてしまう気がしたのです。
その後、私はこの体験を外部に告発しようとしましたが、証拠を揃えることが非常に困難でした。プロジェクトの存在自体が多くの層に隠蔽されているようで、私の言葉をまともに聞いてくれる人はいませんでした。しかし、少なくとも私はこのことを記録としてここに残し、未来の誰かが同じ過ちを繰り返さないことを願っています。
科学の進歩には無限の可能性がありますが、それが人間の領域を越えたとき、何が待っているのかを私たちは見極める必要があります。倫理は決して脇に追いやられるべきではないのです。この話を読んであなたが何を感じるかはわかりませんが、私が経験した恐怖と後悔を少しでも伝えられれば幸いです。