霧の町と預言者の物語

違和感

これは古(いにしえ)の日々より語り継がれる物語であり、数多の者がその耳にし、そして心に刻み続けたものである。人々はこの物語を、ただの伝承として語っているが、そこには目に見えぬ何かが潜んでいるのを知る者は少ない。

かつて、星々がまだ今のように輝きを増す前、世界の彼方に不可解なる町ありき。その町は霧に包まれた谷間にひっそりと存在し、名も持たず、地図には記されず。道なき道を辿る旅人たちが、時折その不思議なる地に足を踏み入れ、霞の中に消えていったという。

この町を訪れた者たちは、皆ある違和感を覚えたり。町の者たちは挨拶をかわすことなく、穏やかに、穏やかでありながらも心魂に何かを訴えかけたり。彼らの眼差しには、そこはかとなく空虚が漂い、微笑みの背後には答え得ぬ謎が潜む。町は静寂に包まれ、風の音すら聞こえない。その静けさの中に、何か得体の知れぬ力を秘めているように感じられたり。

ある時、その町に一人の預言者が現れたり。彼は名も知れぬ者に連れられ、谷を越え、霧の中をさまよい、遂には町の中心に立ちたり。その者の口より出る言葉は、周囲を震撼させる響きあり。その声は風に乗りて町全体に広がり、人々の耳に届くこととなる。

「いましばし、試練の時は来たり。汝ら、人々よ、己が心の奥深くを省みよ。汝の魂はかの地にて赦されるや否や。」

その声の響きは、町を覆う重い霧を突き抜け、かの者らの心を直接打つことしばしばありき。町の者たちはその時初めて、己の存在の意味を問うこととなり、状況に何がしかの違和を覚え続けたり。

やがて、預言者は町の広場にて、光を放ちつつ奥の間へと導かれたり。彼の姿が消えると同時に、町の者たちは一様に顔を見合わせ、内なる確信と不安が絡み合った思いに捉われることとなる。その夜、無数の夢が町中に漂い、それぞれの人々の夢に何がしかの啓示の如きものを与えたり。

夢に見たるものは、天より見下ろし、地を一望する神々の目であり、彼らの微笑みの中に隠された何かが、町人たちの心を弄ることとなる。夜が明ける前の一瞬、町は微かな震動に包まれ、井戸の水は逆流し、影たちは夜露のごとく消え去る。

その翌日、預言者の姿はなく、彼の言葉を信ずる者たちが町を去ることとなる。彼らは森を抜け、再びこの既知の世界に立ち戻るが、町に関する記憶は次第に薄れていく。記憶は夢と現実の狭間に残され、再び語られることはなかった。

しかし、いかなる者も、その町の存在を完全に忘れることはできず、時折無意識の内にまた別の誰かが、同じように霧の町を訪れるという。その町はまるで、人々の心に潜む不安や恐れを映し出す鏡のようであり、かの地を訪れるすべての者に問いかける。汝自身の真実を見出す覚悟はあるや、と。

かくして、この物語は終わりを告げることなく、人々の口から口へと語られ続け、新たなる訪問者を待ち受ける。神話、伝承、そして預言の交差点として、霧に包まれた町は、なおもその神秘を抱き続ける。果たして、次に訪れる者は、その違和感に続く何を見いだすだろうか。それは、人々が魂の底で求め続ける答えなのかもしれない。

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