かつての時代、地に住まう人々は繁栄を謳歌し、天を仰ぐことなく、その知恵と力を誇示しつつあった。されど、神々はそれを見過ごすことなく、人々に試練を与えることを決した。天の戒めは、目に見えぬ疫病として地に降り立ち、生命の理を覆すものと化した。
その名も「復誕の疫」。人はこの禍を前にして、かつての知恵も力も、何らの役に立たず、ただ恐怖におののくばかりであった。その病を受けた者は、まず高熱に浮かされ、続くは肉体の衰退。心は徐々に朽ち、最後には死の安息へと至る。だが、真の恐怖は死後より始まるものであった。
死してなお、安息を得られぬ者たちは、地の下より蘇る。彼らはもはやかつての姿ではなく、魂を抜かれた亡者の姿を晒す。彼らの目に宿るは、黒き闇。彼らの咆哮は、地を揺るがし、空を曇らせる。恐ろしきことに、彼らが触れる者、噛まれる者は、その穢れをも受け継ぎ、新たなる亡者と化す。
人々はこの禍を避けんと、都市を捨て、山野に隠れ住まうしかなかった。リーダーとして自然に力ある者、知識深き者が現れ、彼らに導く。されど、疫と亡者の追撃は逃れることを赦さず、次々と新たなる避難所は暗黒に染められてゆく。
あるとき、預言者と呼ばれる老いたる賢者が現れた。彼はその眼差しを持って未来を観じ、過去を知ると言われ、人々に救済の道を示すと称した。「天の怒りを鎮むべく、我らは神に祈り、清き生け贄を捧げねばならぬ」と彼は告げた。
その言に従う者、従わざる者。集団は分かれ、互いに争いを始める。それを嘲笑うかの如く、亡者たちは日毎に勢いを増し、隠れ住む地にも容赦なく侵入してきた。やがて、預言者に従う者たちは、選ばれし者を生け贄とし、古の神殿にその生命を捧げた。
その結果、疫病の進行は一時的に止まったかに思えた。亡者たちの動きも鈍り、人々は一息つくことができた。しかし、それはつかの間の幻影に過ぎず、数日も経たずに更なる破滅が訪れた。再び襲来する亡者たちはより凶暴さを増し、人々は為すすべを失った。
預言者の予言が誤りであったのか、人間の信仰が試されたのか、それは知る由もなかった。ただ一つ確実なのは、天の怒りが未だ収まらず、更なる試練が待っているということだけだった。
それから幾日か、あるいは幾年か、それすらも知覚できぬ曖昧な時間の中で、人々は薄れゆく希望を胸に生き抜こうとした。そのとき、天照らす光が再び現れ、それはまるで神の啓示の如く入れ替わりゆく時の流れを滞らせた。
光から現れしは神の使者、天より遣わされたる者であったか。彼の声は静かに、しかし確かに人々の胸に響いた。「試練は続く。されど、汝らが心を信ずる限り、道は開ける」
それは、絶望の狭間に差し込む一筋の光であった。人々はこの啓示を胸に刻み、残された力、知恵を結集し、死を超えて新たな戦いを始めた。彼らは再び都市を築き、栄えることなくとも、日々を懸命に生きることを誓った。
破滅の中での新たなる生は、悠久に続く神話の一端へと変わりゆく。信仰のもとに心を繋ぎ、未知の未来へ足を踏み出す彼らの姿こそ、かつての神々の眼には、一つの答えとなるのかもしれない。いずれこの物語が終わるその時まで、生者は歩みを止めることなく、ただ明日を信ずるのみである。