【インタビュー:山下隆一(仮名)、40歳、無職】
――今日は、お時間をいただきありがとうございます。山下さんの体験談についてお聞きしたいと思います。
「はい、こちらこそ、聞いていただいてありがとうございます。こんな話、普通の人には信じてもらえないでしょうけど」
――そんなことはありませんよ。まず、どこでその出来事があったのか教えていただけますか?
「それは、数年前のことです。当時、僕は広告代理店で働いていて、部署の異動がありました。新しい部署では、仕事も内容も少し変わっていて、それについていくのに必死だったんです。その時は家庭の事情で住む場所を変えることになり、新しく家を借りることになりました」
――その新しい家が、今回の体験に関係しているわけですね?
「そうです。その家は駅から少し離れていて、周りには古びた家が多い場所でした。家賃も安かったので、家族も納得して移ることにしたんです。普通の一軒家で、3LDKの間取りで、私たちには十分な広さでした」
――その家で、何が起きたのでしょうか?
「初めてその家に行った時、なんとなく空気がよどんでいるというか、重苦しい感じがしたんです。でもまあ、古い家だからだろうと思い込みましたし、最初の印象に気を使いすぎても仕方ないという気持ちでしたから、そのまま引っ越しを進めました」
――それが、ただの気のせいではなかったと?
「ええ、そうです。住み始めてしばらくすると、いろんなおかしなことが起こり始めました。例えば、夜中に突然、金属が擦れるような音が聞こえてきたり、部屋の隅に誰もいないのに気配を感じたり。最初は、家が古いから仕方ないんだ、自分が疲れているからだと思うようにしていました。ただ、あまりにも頻繁に、何かがおかしいことが続くので、さすがにおかしいと感じるようになりました」
――具体的にどんな事件がありましたか?
「一番嫌な思いをしたのは、ある夜のことです。その日は仕事で遅くなり、帰宅したのは深夜でした。玄関を開けた瞬間、妙な違和感を覚えたんです。靴が違う場所に置かれていたり、ドアノブの感触がいつもと違ったりしました。部屋に入っていくと、確かに自分の家のはずなのに、全ての家具が微妙にずれているんです。それも、誰かがわざとじゃないかと思うほどちょっとだけ。最初は、家族が掃除か何かで動かしたのかと思いましたが、翌朝、家族に聞いても誰もそんなことはしていないと言うんです」
――それは不気味ですね。ご家族も何か感じたりしましたか?
「妻も、子どもたちも、やっぱり少し気味悪がっていました。特に子どもたちは夜中に泣き出したり、すぐに病気になったりして、精神的にまいっていたと思います。それでも僕自身が、家族に対してしっかりしないといけないと思い、気持ちを奮い立たせ続けました」
――そういった現象は、他にもありましたか?
「何度もです。例えば、家の中の時計がいつの間にか時間が狂っていたり、電気が勝手についたり消えたりすることがありました。ついには、妻が家の中にいると誰かが見つめてくるような気配に耐えられなくなり、精神的にかなり参ってしまったんです。家族全員が、この家に居座ることができない、という点で一致しました」
――それで、引っ越しを決意されたんですね。
「はい。何かがおかしい、居心地が悪いと感じた場所から離れようと、家族が一致団結しました。その時の決断は本当に正しかったと思います。いざ引っ越すとなった時、家全体がまるで生き物のように重苦しく、そして忌々しい空気を吐き出しているような気がしました。幸い、引っ越し先では今のところ何も問題は起きていません」
――それは良かったですね。最後に、同じように何か違和感を抱えている方に、その経験から何かアドバイスをいただけますか?
「そうですね、僕から言えることは、違和感を感じた時は素直にそれを自分に認めることです。多くの場合、無視してはならないサインがあるのだと思います。そして、どうしようもなく違和感が募る場所では、別の場所へと移る決断を恐れないでください。家族の安心と心の平穏を優先するべきですから」
――貴重なお話をありがとうございました。あなたの体験が、同じように違和感に悩む人たちの一助になればと思います。
「こちらこそ、少し気持ちが楽になりました。ありがとうございました」