霧に潜む復活の疫病神

感染症

深い霧がその村を覆い尽くし、白い幕の向こうに何が潜んでいるのか、誰も知るよしもなかった。村は古く、小さな家々が竹林に囲まれた丘の斜面に寄り添っていた。静かな村の夜には、風に揺れる竹の葉擦れの音だけが響いていた。

しかし、その夜はいつもとは違っていた。村の外れからゆっくりと近づいてくる音―それは、まるで何かが這いずっているかのような、気味悪い音だった。村の住人たちは皆、眠れぬ夜を過ごしていた。それは、数日前から広まった奇妙な噂が原因だった。村の誰もが認めたくない事実、すなわち古い墓の傍らで村人が次々と倒れているということである。

村の診療所を担当していた若い医者の田中は、噂を聞いてから眠れぬ夜を過ごしていた。彼は異変の原因を突き止めるために必死であった。患者たちの症状はどれも似通っており、急な高熱に始まり、激しい嘔吐と皮膚に黒ずんだ斑点が浮かび上がる。しかし、もっと不気味だったのは、倒れた患者たちが次々と蘇ることだった。しかし、彼らは以前とはどこか違っていた。生気を失った目、無感情な顔、そして驚くべき身体能力――彼らは生者と死者の境界を越えてしまっていた。

村の中心部に住む老人たちは口々に忌まわしい伝説を持ち出し、何かがこの世に蘇ろうとしていると言った。それは、村の裏手にある古い墓にまつわるものだった。長い年月、忘れ去られていたその墓が、まるで何かに呼応するかのように、地面の中で蠢いていたのだ。

田中は、村の長である老人の家を訪ね、噂の真相を問いただした。老人は深いため息をつきながら、重い口を開いた。

「それは、遥か昔に封じられた疫病神の話じゃ。ここで暮らしていた者たちは、死者を蘇らせる力を持っていたが、それは封じられねばならぬ禁忌であった。今、その力が再び目覚めようとしているのじゃよ。」

田中はその話を聞いて、ひどく胸騒ぎを覚えた。何とかして村を救わなければならない。しかし、果たして何をすればいいのか、全く見当がつかなかった。

翌朝、太陽は霧の中にぼんやりと光を放ち、村はどこか非現実的な雰囲気に包まれていた。田中は診療所に急行した。その途中で、彼は目を疑う光景を目にした。村の広場には何人かの村人たちが集まり、彼らは全員が異様な振る舞いをしていた。生気を失い、無目的にただそこに立ち尽くしていた。

ガラスから覗き込む彼らの目は空虚で、かろうじて人間の姿を保っているだけのように感じた。村の子供たちは恐怖で震え、大人たちはそんな彼らを守るべく必死になっていた。

田中はなんとか彼らを救う方法を見つけねばならなかった。だが、時間がなかった。病に侵された者たちは徐々に増えていく一方で、誰も逆らうことのできない奇怪な力に支配されていった。

その夜、診療所の窓から見える竹林の中、闇に紛れるようにして現れる彼らの姿を田中は目撃した。彼らは守られた境界を越え、じわじわと村の中へと入り込もうとしているようだった。恐怖に駆られた田中は、急いで戸を固く閉ざした。

彼は必死で思考を巡らせた。結局、彼がたどり着いた結論は一つだった。何があろうとも、その古い墓を封じねばならない。そして、村の長と共に、翌日その計画を実行に移すことを決意した。

明け方までかかって準備が整った。そして、村の若者たちが数人集まり、田中と村の長を伴い、霧に包まれた古い墓へと向かった。他に方法はなかった。彼らは死者たちの力を封じるため、その封印の儀式に賭けるしかなかった。

墓の前に立ったとき、その不気味な沈黙が彼らを迎えた。恐怖に震えながらも、田中は意を決して、封印のために必要な儀式を開始した。村の長は古い呪文を口ずさみ、墓石に描かれた文字をなぞった。

すると、その瞬間、地面が激しく揺れ、墓が音を立てて崩れ落ち始めた。そして、中からは、その砂にまみれた白骨たちが姿を現した。それは、埋もれた歴史の一部、すなわち忘れ去られた疫病神たちの亡骸であった。

田中たちは、その異様な光景に言葉を失ったが、何とか儀式を最終段階まで進めた。次第に、その場に漂っていた不吉な雰囲気は和らぎ、沈黙が帰ってきた。そのとき、長い夜がようやく明けたかのように、雲間から差し込む太陽の光が村を包み込んだ。

やがて、村人たちは徐々に正気を取り戻し、生者としての姿を取り戻していった。封印は成功したように見えた。しかし、村の長は静かに呟いた。「これが最後ではなかろう。いつかまた、封印が解かれる時が来るやもしれん。」

村には静けさが戻ったが、その日の出来事は永遠に村の記憶に刻まれることとなった。ただ、霧が消え去ったその丘の上で、田中は今も朽ち果てた墓の前に立ち、次に訪れるであろう闇の時を待ち構えている。再び村を救うために、いつでも動き出せる準備をしていた。或いはそれが、彼に課せられた運命なのかもしれない。

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