その夜、私は研究室で一人、迷宮のような文献の山に埋没していた。対象はある日突然、この世から消えたとされる小村「六合村」についてだ。その村は数十年前、密かに姿を消し、地図から抹消されたという。公式な記録にも残されておらず、ただいくつかの古い新聞記事にその不可解な消失が囁かれているだけである。
私は歴史研究者として、この未解決の謎を追求することに没頭していた。膨大な資料を読み進めるうち、一つの言及が私の目を引いた。それは、六合村の異次元的存在に触れた、村人たちの証言をまとめたものであった。彼らは夜な夜な奇怪な影を目撃し、村全体が悪夢の中に吸い込まれるようだったと語っている。
これらの証言の真偽を確かめるため、私は六合村の跡地へ向かうことを決意した。地図には記されていないが、そこへと至る手段はある。幾人かの地元住民に聞き込みをし、隠された道筋を知ることができた。まるで禁忌を破るかのようなこの旅路には、微かに胸騒ぎがあったが、探究心はそれを上回っていた。
到着するや否や、ただの荒れ果てた土地が広がっているとばかり思っていた。しかし、目の前には不気味にそびえ立つ廃墟、かつての村の名残が見えた。だがそれは異様な光景だった。建物の一部は歪み、時空が捻じ曲げられているかのように見える。草木もまた、この世の植物とは異なる奇妙な色合いを帯びていた。
歩を進めるうち、私はかつての村の中心にたどり着いた。そこに立っていたのは、羽根を広げた巨大な鳥のような石像だった。その姿は人間の想像力を遥かに超えており、一瞬、見てはならない物を目にした恐怖感に襲われた。石像の台座には、不明な文字が刻まれていたが、それが人間の手によるものでないことは明白だった。
石像を調べているとき、不意に耳元で鈴の音が響いた。振り返ると、周囲には何もない。だが、空気が変わった。まるで時間がねじれ、異なる次元に足を踏み入れたような感覚が私を包んだ。その瞬間、石像の目が淡く発光し、周囲の景色が一変した。目の前には六合村のかつての風景が広がり、そこには村人たちが生活をしている様子が見えた。
しかし、その情景はすぐに変わり果てた。村人たちの顔は苦悶に歪み、彼らを包む影は徐々に彼らを飲み込んでいった。叫び声や助けを求める声が木霊する中、私はただ立ち尽くすしかなかった。それは次元が崩壊する恐怖を目撃する瞬間であり、理解を超えた存在がこの村を覆い尽くしていた。
再び現実世界に引き戻されると、何事もなかったかのように目の前には廃墟が広がっていた。だが、その記憶は生々しく、否応なく私に刻み込まれていた。この経験を追うほどに、理解できない恐怖が増す一方だった。
研究室に戻り、私は目撃したことを整理しようと努めた。推論を組み立てるが、あらゆる仮説は未知の力に阻まれ、孤立無援のまま終焉を迎える。六合村で起きたことは、異次元の怪異が現実と交差した結果に他ならず、その原因を説明する手段は、現代科学の枠を超えたところに存在するのだと結論せざるを得なかった。
事件の解明は、闇の中に等しく、地図上から消された村が抱える秘密を解くことはできなかった。だが、一つだけ確信できることがある。その村は、未だ何かしらの存在に見守られ、理解を超越した力の影響を受け続けている。それは私たちが計り知れぬ次元の彼方からの干渉に他ならない。恐怖は未だ肌に凍り付き、六合村の謎は、新たなる探索者を待ち構えている。