ある日、あなたは友人と共に田舎の神社を訪れることになりました。目的は、そこにあるという「不思議なおみくじ」を試すこと。地元の噂によれば、そのおみくじは特別な予言をする力を持ち、当たる確率が異常に高いといいます。神社は山の奥深くにあり、境内に辿り着くまでには細い山道を長く歩かねばなりませんでした。
鳥居をくぐると、そこに広がる異様な静けさに気づきます。風ひとつなく、鳥の声も聞こえません。急に世界から切り離されたような感覚に包まれながら、あなたは拝殿へと向かいました。そこで出迎えたのは、年老いた祈祷師のような姿をした神官でした。神官は無言で何かを指し示します。それは、棚の上に並べられた古びたおみくじ箱でした。
「さあ、試してみるがよい。ここはかつて聖なる場だったが、いまや人の力ではどうしようもない何かが住んでいる」と、神官は低い声で話します。あなたは多少の不安を感じつつも、好奇心がそれを凌駕しました。そして、一枚のおみくじを引きました。そこには最初、ごく普通の言葉が記されていました。
「今日の運勢:吉。周囲の人々との調和を大切に。物事は穏やかに進むでしょう。」
それでもどこか煮え切らない心地で、あなたはその場を離れました。おみくじの結果は思ったよりも普通で、少し拍子抜けした気分になりました。
帰途の途中、ふと気づくと足元の影が微かに揺れています。日が沈みかけた空に、一羽のカラスが低く飛び交っているのです。ふとした不安感が胸をよぎりますが、深く考えないようにしました。
夜が更け、家に戻ったあなたは、その日のできごとを軽く流して眠りにつきました。しかし夢の中で、再びあの神社が現れます。鳥居をくぐると、先ほどと同じ異様な静けさが支配する境内。神官がこちらをじっと凝視しています。あなたが近づくと、神官はゆっくりと何かを呟きました。
「吉とされる運勢が、逆に不吉を招くこともある。今一度見よ、自身の運命。」
目が覚めると、あなたはスマートフォンの中で、おみくじの写真を確認することにしました。そのおみくじを再び見てみると、そこには迂闊に見逃していた一行が追加されていました。
「しかし、決して訪れてはならない場所がある。一遇の好奇心は大いなる災厄を引き寄せる。」
不安になったあなたは、夢が現実にならないように意識して注意深く過ごすことを決意しました。数日間は特に異変もなく、やや神経質になりながらも日常生活が続いていきました。
しかしその夜、再び夢を見たのです。今度は前回よりも鮮明で、まるで現実と見まごうほどの映像でした。あなたは神社の境内に一人で立ち尽くしています。周囲には誰もいないはずなのに、いくつもの何かの視線を背に感じます。
その時、神官の姿がゆっくりと闇から浮かび上がり、一枚の紙を差し出しました。
「これが、最後の忠告です。触れてはならぬ事象には、必ず意味が隠されています。」
目を覚ましたあなたは、同じおみくじがまたも変わっていることを確認しました。
「未来を変える選択には、時として大きな犠牲が伴う。影は既にそばにある。」
あなたはすでに遅れていたことを感じ取り、強い恐怖に襲われました。続く日々、どこに行っても誰か、何かがあなたをじっと見つめているような気がして、落ち着くことがありません。
友人に相談しようとしましたが、誰もがその神社におみくじを引きに行った事実を覚えていないと言います。あの場に共にいたはずの友人でさえ、そのことをすっかり忘れているのです。
何かが、あなた一人を対象にしている。それが何であれ、その答えを知るのが怖くて仕方がありません。それでも、あなたは再びその神社を訪れる決心をしました。このままではいけない、どうしてもこの運命の鎖を断ち切らねば、と。
神官は変わらずそこに立っていました。無言のまま、あなたに再びおみくじを差し出します。手が震えるのを感じながら、それを引くと、そこに書かれていたのは最後の予言でした。
「帰路にて、影は一つとなる。全ての時間が止まりし時、新たな始まりを見よ。」
その言葉に込められた意味が何であるか、理解するのは難しい。しかし、その瞬間から、影は確実にあなたと一つになり、運命の車輪は音を立てて動き出したのです。
再び日常に戻れたという安堵感と、新たな未来に何が待ち受けているのかという不安感が、今は心の中で交錯しています。運命から逃れられないまま、あなたは次の一歩を踏み出さなければならないのです。この禁忌が警告する真実を解き明かさずには、未来に進むことはできないのかもしれません。