### 視点1:小学教師・田中和雄
田中和雄は、小学5年生のクラスの担任教師である。夏休みも終わり、いつものように学校に出勤する彼の目には、やや疲れの色が見え隠れしていた。理由は、生徒の一人、鈴木翔太のことであった。
翔太は、数ヶ月前から徐々に授業中にぼんやりとすることが増え、いつも何かに怯えているようだった。ある日、田中は彼を呼び出して話を聞くことにした。「翔太、お前、どうしたんだ?」田中は優しく声をかけた。
「先生、あの神社の夢を見たんだ。毎晩、同じ夢を見て、何かに引き込まれそうで怖いんだ」と翔太は答えた。彼の話によれば、その夢は、授業で歴史として取り上げた廃神社のことであった。地元で“触れてはならない”と言われるその神社に、彼は夢の中で何度も訪れているのだという。
田中は心配になり、同僚の教師たちにも相談したが、夢を過剰に気にしすぎるなと軽く流された。しかし、田中には不安が拭えず、ある決心をした。自分が直接、その神社へ行ってみることにしたのだ。
### 視点2:地元住民・佐藤美紀
佐藤美紀は、小さな村で生まれ育った地元住民で、村の歴史にも詳しい。ある日、久しぶりに村を訪れた際、田中和雄という教師が彼女を訪ねてきた。彼の用件を聞いて、美紀は心から驚き、そして恐怖を覚えた。
「先生、あそこの神社には行ってはいけません。昔から“禁忌”と呼ばれ、人が近づくことが禁じられた場所です」と美紀は警告した。彼女自身、少年時代の出来事から、それに触れてはならないことを知っていた。
その神社は、村の中央から少し離れた森の中に静かに佇んでいた。かつては賑わっていたが、数十年前に“何か”が起こり、以来、誰も近づかなくなった。それでも田中の決意は固かった。「翔太を助けたいんです。彼のために、真実を知る必要があるんです」と彼は言った。
美紀はしばし考えた後、田中に地図を書き、それ以上は何も言わなかった。ただ、「くれぐれも気をつけてくださいね」とだけ告げた。
### 視点3:翔太の母・鈴木亜希子
翔太の母、亜希子は心配性ではあるが、子供想いの優しい母親だった。彼女は、ここ数ヶ月の間に、翔太が変わってしまったことを心から心配していた。ある晩、翔太が夜中にうなされて起きたことで、亜希子は決心した。
「翔太、あなた最近どうしたの?怖い夢を見ているの?」亜希子は寝ていられず、彼の部屋に入った。
「うん…毎晩、あの神社に引き込まれる夢を見るんだ」と翔太は怯えた様子で答えた。亜希子はその話を聞いて、彼が学校で聞いたり、友達からいたずらに恐怖を煽られているのではないかと思っていた。
しかし、最終的に彼女も、その神社の存在が何かの因縁であると考えるようになった。「何かしなければ」と強く思った彼女は、地元の古い文献や村の長老たちに助言を求めることにした。
### 視点4:村の歴史学者・中村弘
村に住む中村弘は、村の歴史を専門に研究している学者だった。彼は、廃神社に関する文献や伝承を数多く調べていた。その神社は、とある封印が施された場所で、ある種の儀式がかつて行われていたことが記録されていた。
中村は、田中と亜希子が相談に訪れた際、彼らにこの事実を伝えた。「あの場所は、決して近づいてはいけないんです」と。文献によれば、ある儀式が失敗に終わり、それがきっかけで神社は封印されたという。しかし、村の人々は真実を隠すために、それを“禁忌”としてただ口伝えにしていた。
「何が祟りをもたらしたのかはまだ正確にはわかっていませんが、封じられた何かが解き放たれないようにするためのものであった可能性が高いです」と中村は続けた。
彼らは中村の話を聞いて、神社への直接の立ち入りを一時的に思いとどまった。だが、それでも翔太の体調は一向に良くならなかった。
### 結末:真相とその後
田中和雄が決意して神社に向かった晩、何も知らない村人たちは、一本の電話を受けた。それは田中からのもので、怯え切った声で緊急の助けを求めるものだった。
田中は神社に着くとすぐに、異様な気配を感じとった。空気が重く、何かが辺りを静かに見張っているようだった。彼はまだ半信半疑であったが、その感覚が現実のものであることをすぐに悟った。彼は神社の境内で不気味な埴輪を見つけ、それがある封印の跡だと直感した。
田中がそれに触れた瞬間、強烈な痛みと共に彼の意識は一瞬で飛んだ。気が付くとどこかの病院で、鈴木亜希子と佐藤美紀、中村弘が心配そうに彼を見つめていた。不思議なことに、田中が神社に近づいた夜は、翔太の状態も急に良くなっていた。
「翔太はもう大丈夫だ。しかし、あの神社はまた完全に封印された。君が何かを成したんだ」と中村は語った。田中は錯乱状態に陥ったが、彼の行動が何らかの形で祝福を受けたことに皆が気づいていた。
後に、村はその神社を再び封じるための儀式を行い、二度と開かれることがないように手を打った。それにより、村は再び平穏を取り戻し、忌まわしい過去は再び文献の中に閉じ込められた。しかし、彼らが知らないところで、“何か”はまだ静かに森の中で眠っている。