秋の日に出会った謎の女性たち

違和感

私はある秋の日、何も特別なことが起きるはずのない静かな午後を過ごしていた。普段の週末なら、朝寝坊をしてのんびりとした一日を過ごすのだが、その日は少し疲れが溜まっていたため、アパート近くの小さな公園でベンチに座って息抜きをしていた。

公園は、小さな池と木々がそっと囲むように佇む、落ち着いた場所だった。いつもなら家族連れや散歩をする人たちで賑わっているのだが、その日は何故か人影はまばらだった。冷え込んできた空気がそうさせるのか、風がひゅうひゅうと葉をかき乱すばかりで、時折遠くで子供の遊んでいる声が聞こえてくる程度だった。

いつの間にか、私は心地よい眠気に襲われ、うとうととし始めていた。冷たい空気が少しずつ肺に入ってきて、意識がぼやける中で何か違和感を感じた。ふと目を開けると、ベンチの近くに一人の女性が立ってこちらを見ていた。彼女は長い黒髪を持ち、古風な着物を纏っていた。今どきこんな服装で歩いている人は珍しいと思いながらも、目を逸らすことができなかった。

しばらくの間、私たちはお互いを見つめ合っていた。彼女は何も言わず、ただ静かに立っている。あたりを見回すと、いつの間にか公園には私たち以外誰もいなくなっていた。妙に静かで、風が止むと一瞬、私たち以外の世界がまるで時を止められたかのように感じた。

私はその場を立ち去りたいと思ったが、なぜか体が動かない。目の前の女性から目が離せない。不思議と彼女が全く怖いとは感じず、むしろ彼女の存在にどこか安心感を覚えたのだ。しかし、その安心感がますます不安を煽る要因にもなっていた。

「何かがおかしい」とはっきりと感じた瞬間は次の瞬間だった。女性の背後に気配を感じ、そこにはまた別の人物が立っていた。今度の人物は背が高く、帽子を深く被り顔が見えなかった。男性のように見えるが、表情が全く読み取れないのがまた不気味だった。

私はその場を離れなければと思い、ようやく重たい体を動かし始めた。立ち上がり、ゆっくりと後ずさりをしながら公園を出ようとすると、背後から声が聞こえた。「待って」。それは確かに女性の声で、振り返ると彼女はまだ同じ場所に立っていた。しかし、彼女だけではない。公園の別の場所にも何人か人が現れているのが見えた。

どこからともなく集まってきた人々は、誰もが古風な服装をしており、皆こちらをじっと見つめていた。その瞬間、自分が追い詰められているような感覚に襲われ、私はその場を逃げ出した。

帰宅後、あの公園での出来事を振り返ると、ますます細部の記憶が曖昧になり、自分が何を見たのかよく分からなくなっていた。次の日、再度確認したくて公園に行ってみたが、その日は普通に人々が散歩をしていたり、子供たちが遊んでいたりして、あの日のような異様な雰囲気は微塵もなかった。

しかし、どうしても気になってもう一度だけその場所を訪れると決め、夜になってから出かけることにした。夜の公園は昼とは打って変わって静寂そのものだった。街灯の明かりが頼りなく点いている中、私は恐る恐るあの日のベンチへと足を向けた。

その時、またあの女性が現れた。今度は一人でなく、彼女の背後にはあの日見た彼ら全員が立っていた。驚いて目を擦ったが、その光景は変わらずそこにあった。心臓が激しく鼓動し、再び恐怖が全身を駆け巡った。

しかし、どうしても彼女たちの意図を知りたいという気持ちが勝り、私は震えながらも問いかけた。「あなたたちは一体何者なんですか?」その問いに対し、驚くほど静かな声で彼女は答えた。「私たちはここに昔からいる。ただ、それだけよ。」言葉の意味がよくわからず混乱が深まる中、彼女たちは一斉に背を向け、そのまま公園の闇の中へと消えていった。

気がつくと、そこには私一人だけが残されていた。そのまま足を引きずるようにして帰宅し、以降その公園を訪れることは二度となかった。しかし未だに、あの時の彼女たちの姿と声は頭の中で鮮明に思い出されることがある。

何だったのかは今でもわからない。ただ、あの時感じた「何かがおかしい」感覚は決して夢や幻ではなかった。あの場所には、確かに何かがいるように思えてならない。今後も足を踏み入れないと決めたが、あの場所は今も私の中で微妙な違和感として存在し続けている。

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