古びた館の失踪探検

閉鎖空間

山奥の湖に浮かぶ小島に、ポツンと古びた館が建っていた。無数の窓ガラスは曇り、外界を拒絶するかのようにひっそりと佇むその様相は、まるで暗い湖面に映る影のようだった。島に渡る唯一の方法は、小さな木製のボートを漕ぐこと。湖面は時折、不気味な音を立てては闇の深淵を垣間見せる。

その閉ざされた館に誘われるようにして、好奇心旺盛な若い者たちが集まった。彼らは、音信不通となった友人を探しに来たのだった。失踪事件は、忽然としたもので、最後にその友人が向かったとされるこの館が、不安の螺旋の中心にいた。

重厚な扉を開け、館内に足を踏み入れると、彼らを迎えたのは、ひんやりとした霧をまとったような静寂であった。床板はギシギシと悲鳴を上げ、まるで古ぼけた時の重さに耐えきれなくなっているかのようだ。それぞれの部屋の中は、埃をかぶった家具や、色褪せた壁紙に囲まれ、過去の亡霊たちの囁きを隠し持っているかのごとく、何かを訴えかけている。

夜が深まるにつれ、外の風が強さを増し、木々の葉がざわめき、窓ガラスを不規則に打ち付ける。館の中の彼らは、次第に不安を募らせていった。胸騒ぎを覚えながら次々と部屋を探し続けるが、どの部屋にも友人の姿はなく、虚ろな静けさだけが返ってくる。時計の針がいつの間にか速度を緩め、時間そのものが異質な空間に飲み込まれていく。

そして、館の最奥にある大広間。その中心に置かれた黒いグランドピアノが、彼らを待ち受けていた。誰かが触れたのか、ひとりでに開いたピアノの蓋がカタリと支えを失った音を立てる。それは何かの始まりを告げる合図のようであり、彼らの心臓は一瞬、凍てつくような恐怖に捉えられた。

その瞬間、どこからともなく、かすかな物音が静けさを破り響き始めた。まるで館そのものが息を吹き返したかのように、壁が、床が、天井が、いまだ秘められた謎を解き明かそうとする勢力に満ち、館内は不透明な何かで侵食されていく。

「誰か…いるのか?」

震える声が反響する。しかし答えはなく、ただ彼らの不安が増大するだけだった。そのとき、辺り一帯が暗闇に包まれ、一瞬視界が奪われる。何かの力が働いたように。次の瞬間、彼らの視界が戻ったときには、彼らの数は減っていた。何かが彼らの一人を奪い去り、この場から姿を消したのだ。

「逃げよう…ここは危険すぎる!」

残った者たちは恐怖に駆られ、同意するが、出口を目指す彼らの足は思うように動かず、館の階段や廊下が暗がりの迷路となって立ちはだかる。扉を開けようとするも、鍵がかかったようにびくともせず、外界から訪れる風の響きまでもが途絶え、尋常ではない気配が立ち込めた。

再びグランドピアノが低く響いた。今度は紛れもなく誰かがその鍵盤に触れている。ゆっくりとした調べは何かを語りかけるようであり、その音色はどことなく慕情に満ち、彼らを心の奥深くから捕らえる。

「どうして、こんな…」

館の壁にかかる古びた絵画たちが、彼らを見下ろす。忽然と動きを止めたかのように無機質な人物たち。しかし一瞬の間、絵画の中の目が動いた気配がし、彼らは自らの鼓動が速まるのを感じざるを得なかった。

居場所を失った者たちは、どうしようもない居心地の悪さに追い詰められ、次第に独り言のようにつぶやきを漏らし始める。「ここにいてはならない、この場所に足を踏み入れるべきではなかった」

だが遅かった。彼らは既に、存在するはずのないという幻影に取り込まれ、刻一刻と迫る何者かの気配を振り払うことができない。

再び一人、静かにその場を消え去った。もはや誰が消えていったのかすら分からぬまま、彼らの心は闇の淵へと吸い込まれた。互いの声も、届くことはなく、やがて静寂が支配する。

そして、すべてが暗闇に溶け込んだその時、誰かの声が薄明かりのなかでささやかれる。

「ここは、避けられぬ運命の檻。私のように、誰もが狂気の底に堕ちていくのだ」

その声の持ち主が誰なのか。確かめようとしても、もはや館は彼らを受け入れることしか知らない、終わりなき密室の迷宮に姿を変えていた。ただ、一人、また一人と館の奥底に溶け込んでいくだけである。

湖に浮かぶ小島の館は、今日も静かに、失われた魂たちを抱え込み続ける。その不気味なまでに旅愁を帯びた佇まいを、どこからか訪れる風だけが目撃者としているかのようであった──。

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