そは彼方の静謐なる闇、黄昏の境域に潜みける異界の響、彼の者の猛り猛りし姿を隠し、隠の秘儀を謳いし者どもがその闇に足を踏み入れしことを、何人知り得んや。まこと恐るべしは、狂気の影を纏いし心なり。一たび封じられしはずのそれは、再び開かれたる扉より這い出で、惑い、さまよいし者どもに永劫の呪いを捧げん。
我らの目前に迫りしは、破滅の訪れを告げし風の言の葉なり。夜の襞に隠れし声、虚ろなる呪文を呟きしその者は、孟浪なる地を訪れし者を狩り、その肉体を弄びし悪しき魂なり。そは、血潮に染まりし刃を掲げ、闇夜を裂きて悲嘆を紡がんと欲し給ふ。
誓いて曰く、彼の魂は隻なる意志を放ち、古の狂気を呼び覚ましぬ。瞳の奥に潜めし無悟なる殺意は、一度覚めし後、再び鎮まることを知らず。狂おしき笑みを浮かべたるその顔は、人ならざるものの面影を留めし者なり。
或る者は言ふ、彼の者は不死の存在と化し、呪いの循環をも司りしと。彼の歩みし跡には、遺骸の山、人肉の祭壇が築かれ、嗚呼、その凄まじき儀式の様にして全ては飲み込まれぬ。彼は切り裂き、皮を剥ぎ、血を浴び、未だ飽かずして更なる犠牲を求めん。
衆目の避け得ざる劇場と化し、彼の狂気は鮮烈なる断罪の刃を振るう。無明のうちに、恐怖の影は否応なく拡がりて、嗚呼、燦たる地平すらその黒幕にて塗りつぶされん。
慈悲なき狩人は、一つ、また一つと屍を刻み、声無き誘いに応じて、彼の世界に引き摺り込まんと欲し給ふ。最期の一息すらも許されず、彼の手にかかりて絶命せんとする瞬間、それは悠久の夢幻を見るが如きさまなり。
紡ぎし言葉はやがて沈み、静かなる夜の帳が広がりて、憂いの涙を飲み込まん。人知れぬ森の奥、美しき流れの川は、もはや何物を照らすこともなく、ただ無声のままに立ち尽くす。
記憶の片隅に残りしは、無機質なる光景と、生々しき己の末路を悟りしし瞬間なり。残酷なる現実は、やがて全てを奪い去り、しばしの忘却ののちに、再び恐怖の劇を再演せんとす。人はまた識ることなくして、その歪みし舞台に引き寄せられ、囚われん。
万物流転の理を越えし、この無限なる呪縛。そは解けぬ環となり、彼の猛り猛りし虚無の中にて果てしなく循環す。かくして永久の鎖に繋がれしことで、犠牲と化したる魂は、只管に望みを断たれゆく。されど、その嗤い声は何処までも響き渡り、恐怖の不浄なる讃歌ともなるべし。