私が経験した話を、あなたにお伝えしたいと思っています。この話は今でも私の心に深い痕を残しています。だから、この話をするのは少し怖いのですが、おそらく誰かが耳を傾けることで、何か意味があるのかもしれないと考えています。
その出来事は、私がまだ大学生だった頃に起こりました。夏休みの間、友人と二人で山奥の小さな村に行ったんです。この村は観光地としてはあまり知られていませんが、地元の人々の間では「古くからの神秘」がある土地として語り継がれていました。私たちは、その「神秘」を体験したいという興味本位でその場所に訪れました。
村に着いたのは午後5時過ぎでした。日が少し傾き始めた時間で、山々が青い影を作り出していました。迎えてくれたのは、70代後半に見える村の老人でした。彼の瞳には、何か訴えるような光が宿っていました。
老人の案内で古い旅館に着くと、「この村には夜に出歩かない方がいい」と忠告されました。理由を尋ねても、彼はただその場で静かに微笑むだけでした。どういうことだろうと思いながらも、疲れた私たちはそのまま村の風呂に入り、早めに布団に潜り込みました。
深夜、微かな物音で目が覚めました。最初は、どこから来ているのか分かりませんでした。その音は、かすかな囁きのように聞こえ、まるで風が草を揺らす音のようでした。しかし、よく耳を澄ませば、その音は確かに人の声だったのです。
友人も同じように起きてしまい、私たちは眠気を追い払いながら音の発生源を探し始めました。やがて、音は窓の外から来ていることに気づきました。カーテンを少し開けて覗いてみると、そこには信じられない光景が広がっていました。
青白い月明かりの下、何人もの人影がこちらを見上げているのです。それはまるで、村全体が結託して私たちを見張っているかのようでした。人々は動かず、ただ静かに立ち尽くしていました。どうして私たちを見つめているのか、その理由が分かりませんでした。
友人と私は互いを見つめ合い、言葉を交わすこともなく、カーテンをそっと下ろしました。二人とも、そのとき感じた不気味さと恐怖でいっぱいでした。そして、「何かがおかしい」と感じながらも、再び眠りに就きました。
翌朝、私たちは朝食を取りに大広間へと向かいました。そこには老人と数人の村人がいました。昨夜のことを尋ねると、老人はゆっくりと話し始めました。
「この村では、時折、外から来た者を確かめるように集まりを見ることがあるんだ」と言うのです。その意味を理解しきれない私は、更に問いただしました。「それは何のためですか?」
すると老人は一瞬だけ私たちの目を見てから、小さく肩をすくめました。「村を守るためさ。この村には、昔から悪しきものが入り込まないよう見張る役目があるんだよ」
その言葉に、私たちは何も言い返すことができませんでした。村人たちは私たちを見つめ、淡々と朝食を取る姿に、どこか非現実的な感覚が蘇りました。
その日の午後、私たちは村を後にすることにしました。離れる際、再び老人が私たちを見送ってくれました。私は最後に老人に対して「もう来ることはないと思いますが、お元気で」とだけ言えました。老人は静かに頷き、「君たちには見えたんだろうね、本当の姿が」と言い残しました。
それから数年が経ちますが、私はその村には二度と足を踏み入れていません。その夜に見た人々の姿、老人の言葉、そして神秘に満ちたその場所の雰囲気が、今でも私の頭から離れません。あの村は一体何だったのか、何を守っていたのか、それは私の記憶の中で神秘のままなのです。
この話が現実なのか、それとも夢だったのか、私には判別がつきません。しかし、これが私の経験したすべてです。それがあなたに何を意味するのか、それは分かりませんが、何かを感じ取ってもらえれば幸いです。