異次元への遭遇: 秋の夜の恐怖体験

異次元

人生で最も理解を超えた出来事に遭遇したのは、忘れもしないあの秋の夜のことでした。私は当時、都市の喧騒から離れた地方の研究施設に勤めており、そこでの平穏な日常に満足していました。施設は周囲を深い森に囲まれており、夜になると一層の静寂が訪れます。その静けさが、時に不気味に感じられることもありますが、それはただの自然現象だと思っていました。

その夜、私は施設で少し遅くまで作業をしていました。みんなが帰った後、私はひとり静かにパソコンの画面に向かってデータの整理をしていました。外は月明かりが薄く差し込むだけで、施設内も薄暗く、その静けさが一層際立っていました。その環境に慣れているはずの私でしたが、その日はどうにも胸騒ぎがして少し落ち着きませんでした。

整理を終え、帰路につこうと車に乗り込んだのは、夜中の2時を少し回った頃でした。車を走らせると、森を抜ける一本道が延々と続きます。普段はその道を通るのが好きで、夜中のドライブも苦ではないのですが、その時は妙に荒い息が、自分でも気になるほどになっていました。周囲は霧が立ち込め、ヘッドライトの光がぼんやりと広がるだけで明瞭な視界はありませんでした。

途中で、ふと気づくと、道の脇に何か光るものが見えました。好奇心に駆られ、車を停めて確認しに行くことにしました。車をライトをつけたままにして、その光のもとへ歩いて行くと、それは古びた看板でした。ヴァンダルにより字が消されていて、読める部分はほとんどなかったのですが、「立入禁止」とぼんやりと書かれているのがわかりました。

普通ならその時点で気味悪く感じ、立ち去るところでしょう。しかし何かに引き寄せられるように、その先をもう少しだけ見てみたくなりました。私は看板を超えて足を進め、見えない力に導かれるように森の奥へと進んでいきました。すると、しばらくして突然、空気が変わったのを感じました。温度が下がり、耳鳴りのような低音が響いてきました。

その音を辿って進むと、目の前に広がったのは、異様な光景でした。密集した木々の間にある開けた場所で、そこには普通では考えられないサイズの存在、何か巨大な物体がその場に留まっていました。それは物体というよりもむしろ、空間そのものが歪んでいるように見えました。目に見えるのに、理解はできません。何かを見ているはずなのに、捉えきれない感覚に襲われました。一瞬目がくらむ感覚を覚え、しばらくすると、その存在の中心から光が漏れているのに気づきました。

その光は言葉にできないほどの美しさと恐ろしさで、私の全身が麻痺したかのように動けなくなりました。光はまるで生きているかのように動き、私はまるでそれに見入られた獲物のようで、逃げるどころか一歩も動けませんでした。そして、まるで私の内側を透かし見ているかのような強烈な視線を肌で感じ、全身の毛が逆立つのを感じました。

その光と同化する感覚が襲ってきて、自我が消え失せ、自分が何者なのかもわからなくなってしまいました。そして次の瞬間、目の前の光がぐにゃりと形を変え、生物のようなものが現れました。それは見ることも理解することもできない、しかし確実に存在しているもの。信じがたいことに、その生物の内部に、もうひとつの次元へと繋がるような深淵が見えました。

その異次元への窓の中には、何もない空間が一面に広がっており、そこに吸い込まれそうな感覚が襲ってきました。逃げなければ、このまま存在そのものが消え去るのではないかという本能的な恐怖が心を支配しました。しかし全身が動かず、絶望がじわじわと襲ってきたのです。どれだけ時間が経ったのか、まったくわからないままで、私の記憶も次第に薄れていくのを感じました。

気がつくと、私は自分の車の中にいました。霧は晴れ、車は道端に停まっていました。何事もなかったかのように、秋の夜風が窓から肌に触れ、自分が今いる現実を確認しました。しかし心のどこかで、あの異次元への遭遇が現実であったことを確信せざるを得ませんでした。それからしばらく、私は夢の中でもあの存在を思い出し、何度も同じ悪夢にうなされました。

この体験を誰にも話すことはありませんでした。話したところで、それを理解してくれる人がいるとは思えませんし、あまりにも現実離れしていて、自分でも信じたくないような出来事だったからです。でもあの日、確かに私は他の次元に繋がる何かと遭遇したのです。この世には理解を超えた存在が、我々の知らないところで静かに潜んでいるのかもしれないと、深い恐怖を感じています。

タイトルとURLをコピーしました