禁断の遺伝子操作が招いた破滅

人体実験

夕陽が赤々と染め上げた都会の喧騒が、次第に夜の帳に飲み込まれていった頃、その研究所は密かに異様な熱気を放っていた。外部から隔絶されたその施設は、地中深くに掘られた無機質な空間であり、日常の音や光は一切届かない。そこには、科学とは何たるかを見失った男たちが集まっていた。彼らが求めるのは、神が与えたもの以上の力を人間に宿すこと。その名のもとに、倫理の枠を外して実験に没頭していた。

エドウィン博士は、その計画の中心人物であった。彼は優秀な遺伝学者であり、かつては多くの称賛を受けた。しかし、その探究心が次第に常軌を逸し、生命の神秘を解き明かすという使命に溺れていったのだ。ある日、博士は突然、ある発明に取り憑かれた。遺伝子編集技術によって人間の限界を超えた力を持たせることだ。

夜ごとに行われる実験は、次第にその狂気の幕を開けていく。被験者たちは、もはや自分が何者であるかを知らず、ただ博士の言うがままに従うだけの存在と化した。彼らの身体は、何の抵抗もなく薬品によって変えられていく。遺伝子は操作され、身体はまるで粘土細工のように形を変えられ、自然の摂理に逆らった怪物へと作り変えられるのだ。

ある晩、実験が行われる地下室に、ひどく哀しい表情をした被験者が連れられてきた。その男は若いのだが、その目には憔悴と恐怖が刻み込まれていた。彼は必死にエドウィン博士を説得しようと試みる。「これ以上はやめてください。痛みも恐怖ももう耐えられません…」。だが、そんな訴えが耳に届くわけもなく、博士は薄笑いを浮かべたまま、彼の訴えを無視して薬液を投与する。

肉体は変化を始めた。痛みに男は叫び声を上げるが、それは地下の深い闇へと吸い込まれていった。筋肉が膨らみ、骨が変形し、皮膚が引き裂かれるようないたましい音が響く。男の身体は、ついには普通の人間の枠を超え、形容しがたい異質なものとなった。その過程で、かつて彼が抱いていた人格は消し去られ、ただの実験材料としての存在に変えられてしまったのだ。

エドウィン博士は、成功の兆しを見て微笑む。この実験が完遂されれば、彼は神のような力を手に入れるかもしれないという期待に胸を躍らせていた。しかし、その欲望はやがて彼自身を亡ぼす元凶となる。

恐るべき存在となった被験者は、知能もまた変化していた。その知能は過去のかすかな記憶――痛み、怒り、そして復讐心――に突き動かされた結果、次第に知恵をつけ始める。その晩、博士の知らないところで、その被験者は囚われた仲間たちと密かに意思の疎通を試みていた。

次なる瞬間、静かな恐怖が研究所を包み込む。被験者たちは、博士の意図を超えて連携しはじめたのだ。彼らは監禁からの解放を求め、策略を巡らせた。異様に発達した知能は、科学者たちの手を出し抜くことに成功する。

ある嵐の夜、研究所の警報が鳴り響く。異常を知らせる赤い光が地下を駆け巡り、探索者たちの心に不安を呼び起こした。エドウィン博士が駆け付けた時には、すでに遅かった。被験者たちは拘束を破り、自由を得ていたのだ。彼らは、その身体を活かして研究所を脱出し、はやくも外の世界へと散っていったのだ。

博士が直面したのは、己の行いの結果であった。彼の前には一人の被験者が立ちすくみ、その目は怒りと憎悪に満ちていた。「お前が奪ったものを取り返しに来た」と、低い声で告げる。博士は震え、後退りするも、そこには既に逃げ場はなかった。彼の脳裏に去来するのは、生命を弄んだ報いとしての恐怖の未来である。

結果として、研究所は廃墟と化し、科学技術の異形たちは人知れず夜の闇へと消えていった。しかし、彼らがまた何処かで目を覚まし、その怒りの矛先を向ける日が来るのかもしれない。その時、人々は己の科学が越えてはならぬ一線を踏み越えたことを知るであろう。倫理を忘れた場所で生まれ、存在してはならぬことを敢えて存在させた報いは、果たしていつ人々を襲うのか、それは神のみぞ知ることだろう。

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