霧隠れ様の村の恐怖体験

妖怪

私は都内の大学で民俗学を専攻している大学生です。夏休みのある日、教授の薦めもあって、友人たちと一緒に深山に囲まれた小さな村を訪れることにしました。私たちはこの村の伝承に興味を持ち、その調査をしようと考えていました。

村に到着したその日、私たちは宿に荷物を置くと、さっそく村を歩き始めました。古びた神社や祠、厳かな空気をまとった巨木など、訪れる場所すべてが神秘的で、私たちはすっかりその雰囲気に魅了されてしまいました。しかし、村の住民との会話の中で、ある奇妙な噂を耳にしました。

ある家の家族が突然夜中に姿を消し、翌朝戻ってきたときには誰もその失踪について話したがらなかったというのです。その家族は、その後しばらくして村を離れたといいますが、その理由もはっきりとは教えてくれないのです。私たちはその話に興味を引かれ、その家がどこにあるのかを地元の人に尋ねました。すると、村の外れの森の近くにあるということを教えてくれました。

その夜、私たち好奇心に駆られ、その家の様子を見に行くことにしました。村の道を静かに歩き、森の入り口に差しかかると、普段とは違う空気感を肌で感じました。まるでそこだけが別の空間に隔離されているかのように冷たい風が吹き、鳥や昆虫の音さえも聴こえなくなっていました。

目的の家にたどり着くと、そこは確かに人が住んでいる様子がありませんでした。古びた木造の家はがらんとしていて、庭にも乱雑に草が生えていました。窓に近づくと、突然、背後から不気味な音がしました。振り返ると、森の中から何者かがこちらをじっと見ている感じがしたのです。しかし、暗闇の中で何かをはっきりと見ることはできませんでした。

私は仲間を急かし、その場を離れることにしました。その夜は何事もなく過ぎていきましたが、翌朝、私は妙な感覚で目を覚ました。夢に立ち込める霧の中、誰かが私を呼んでいる声がしたような気がしたのです。声の主は決して人間ではないような、どこかしら恐ろしげな響きを持っていました。

不安を振り払うように、私は村の人に再び話を聞きに行きました。そこで出会った年配の男性が静かに語り始めました。「この村にはかつて、霧隠れ様と呼ばれる妖怪が住んでいました。その姿を見た者は誰も生きて帰ることはできませんでした。」彼の言葉に、私は背筋を凍らせました。

怖くなった私は教授に相談しました。教授は静かにうなずき、「霧隠れ様のことは知っているよ。この辺りの山岳地帯には古くからそういう妖怪の伝説がある。姿を隠し、人を迷わせてしまう力があるらしい」ということを教えてくれました。

その晩、またしても奇妙な夢を見ました。霧の中で私を呼ぶ声が次第に大きくなり、その声に引き寄せられるように、私は深い森の中に進んでいきました。そして、突然目覚めると、翌朝の光が差し込む部屋の中で息苦しさを感じました。

私はしばらく誰にもこのことを話さず、怖れと不安の中で過ごしていました。しかし、ある時、同行していた友人の一人が怪我をしたことで全員の不安が一気に増幅しました。「何かに押された」と彼は言いましたが、その説明からはどこか理解を超えた恐怖が滲み出ていました。

私は意を決して、再びその年配の男性の家を訪ねました。彼は私の様子を見てすべてを察したのか、再び静かに口を開きました。「あの場所は、霧隠れ様が好んで住む場所。立ち入る者はその目に見えぬ力によって狂わされ、時には命を落とすこともある。」

彼の言葉に心底震え上がった私は、それ以上何も言えませんでした。そこから私たちは滞在のスケジュールを早め、村を後にしました。戻ってからしばらくは何事もなく過ごしていたものの、今でも時折、夢の中であの霧の中に引きずり込まれそうになることがあります。

これは、友人たちとともに遭遇した不可解な出来事の記憶です。あの村に行くことはもうないだろうと思っています。なぜなら、あそこには確かに、私たちとは異なる存在が住んでいるのだと信じているからです。気をつけてください。霧の向こう側には何がいるか、私たちには見えないものが確かに潜んでいるのです。

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