都市伝説が現実になった夜

都市伝説

僕の友人であるタクヤが、最近体験した話を聞いてどうにも忘れられず、ここに書いてみようと思う。タクヤの話は、彼がその実体験を通じて体感したと語るもので、最初は他愛もない都市伝説だと思っていたが、聞いているうちに背筋が寒くなった。話自体は、彼の共通の知り合いを通じて何度か耳にしたことがある「都市伝説」の類だったが、タクヤはその話の真相を自ら体験してしまった。

タクヤはある日、珍しく週末を一人で過ごしていた。いつもは友人たちと集まり、どこかに出かけることが多い彼だが、その日は雨でどこにも行く気が起きず、家で映画を観て過ごそうと思っていたらしい。彼のアパートは郊外にあり、静かな環境が好きでそこに住んでいる。

その日、夜も更けてきた頃にふと「マサキ」という共通の友達から電話がかかってきた。いつもならメールやLINEで済ませるマサキが電話をかけてくるのは珍しいことだったし、その声はどこか緊張しているようにも聞こえたらしい。

「タクヤ、ちょっと話したいことがあるんだけど…」マサキはこう切り出した。どうやら彼には最近、日常生活に影を落とす不可思議な出来事がいくつか起きていたという。

ある晩、マサキが一人で寝ていると、玄関の方から小さな音が聞こえたという。最初は風か何かかなと思って無視していたが、その音は毎晩同じ時間に聞こえるようになった。まるで誰かがドアの前に立ち、ノックするのを躊躇っているかのように。マサキはそのうち、その音に慣れてしまったが、どこか不気味さを感じずにはいられなかった。

ある夜、ついに興味を抑えきれなくなったマサキは、丁度その音が聞こえた時間帯に玄関に向かい、心臓をバクバクさせながらドアスコープを覗いてみた。しかし、そこには暗がりしか見えず、誰もいなかった。安心したマサキは何事もなくその夜を過ごしたが、それから数日後、また同じ時間に音がしたらしい。

マサキは再びドアスコープを覗くが、誰もいない。これが何かのイタズラだとすれば、非常に手の込んだものだと思い始めた彼は、その翌日、昼間に玄関前を確認することにした。すると、ドアの前に薄くて小さな紙片が落ちているのを発見した。

その紙片には「タスケテ」とだけ書かれていた。不気味に思ったマサキは、そのメッセージをスマホで撮影し、一応、証拠として保存したらしい。

この話を聞いてタクヤは、何かの良く出来たイタズラかと思ったが、マサキは真剣でその顔色から冗談ではないと感じた。タクヤはただ、気をつけるようにとしか言うことができなかった。

そして、その数日後のことだ。タクヤは、友人たちと外で食事をしていたが、その夜はどういうわけか気分が沈んでいた。理由は分からないが、どこか心に引っ掛かりを覚えていたと言う。

帰宅すると、自宅の前に誰かの気配を感じた。ふと、マサキの話を思い出し、その時点で背筋にぞっとするものを感じたタクヤは、急いでその場を立ち去ることにした。しかし、何か気になるものがあり、ふと立ち止まって振り返ると、自分のドアに何かが貼られているのに気づいた。

それはノートの切れ端のようなもので、そこに何かが書かれていた。タクヤが近づいて確認すると、それは確かに「タスケテ」と書かれており、マサキが見たという紙片と同じものだった。

タクヤは急いでその紙を取って部屋の中に逃げ込んだ。室内に入ると、急に全てが静寂に包まれ、まるで音が吸い込まれていくかのようだった。彼はソファに座り込み、目の前の状況を整理しようとした。

それから数日間は、何も不思議なことは起こらなかったが、事件はタクヤが予想もしなかった形で再び起こった。ある晩、タクヤが眠りにつこうとした時、自分の携帯に、非通知の電話がかかってきた。そして開いた瞬間、その向こうから微かに聞こえてきたのはか細い声で、囁くように「タスケテ」と繰り返すだけだった。

その後の出来事は混乱そのもので、タクヤはその声が夢か現実かも区別がつかなかった。しかし、その翌日にマサキからメールが届き、内容は「何か見つかった、話がしたい」というものだった。

タクヤはすぐにマサキに連絡を取り、会う約束をした。そしてマサキから聞いた話が、彼を更に深淵へと引き込んでいった。

マサキは、その不気味な出来事から逃れるため、地元の図書館で何か手掛かりを探そうとし、古い新聞記事の中で、「数年前にこの界隈で変死体が見つかった」という記事を見つけていた。詳細は不明だが、その事件と何か関係があるのかもしれないという不安が、彼の中から離れなかった。

僕は、こんな話を聞いた翌日から、自分の周りで何か不気味なことが起こるのではないかと、不安な日々を過ごしている。タクヤもマサキも、その後は特に変わったことはないと言っているが、彼らの住むアパート周辺は今でも、どこか不気味な雰囲気が漂っているという。

誰も本当のことはわからないし、確認のしようもない。ただ言えるのは、タクヤやマサキだけでなく、この怪異が今度は僕自身のすぐそばまで来ているかもしれないということ。もしそうなら、この話は決して他人事ではないのだ。

この話を書き終えた今、どうかこの不気味な出来事が僕たちの周りから消え去ってくれることを願うばかりだ。果たして、本当にそうなるかどうか、それは誰にも分からない。

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