去年の夏、俺は大学のサークル仲間と一緒に、ある田舎の村に旅行に行った。自然豊かで、人里離れた場所だったので、静かに過ごせると思ったんだ。メンバーは俺を入れて5人。サークル活動で知り合った友人たちで、夏休みを利用して何か面白いことをしようという軽い気持ちだった。
その村は、過去には山を越えなければたどり着けないくらい辺鄙な場所にあったらしいが、今では道路が整備されていたため、車で楽に到着することができた。俺たちは村外れの民宿に泊まることにして、地元の食材を使った食事を楽しんだり、周囲の自然を散策したりした。
到着した夜、民宿の主人が不思議な話をしてくれた。「明日は特別なお祭りがあるから、興味があれば参加してみるといい。」その祭りは、村を挙げての特別な行事で、外部の者も歓迎されるという。しかし、詳しい内容については誰も教えてくれない。村に伝わる独特な習慣のようで、興味をそそられた。
翌日、俺たちはその祭りに参加することに決めた。村の中央広場に行くと、村人たちがすでに集まっていた。広場は、木々で囲まれた静かな場所で、中央には古びた石碑が立っている。村の中心にあるこの広場が、この祭りの要であることは明らかだった。
村人たちは我々よそ者にも親切で、祭りの始まりを待つ間、いくつかの露店を見て回ることができた。手作りの工芸品や地元産の食べ物など、興味深いものがたくさんあった。祭りの開始時間になると、村の長老らしき老人が、広場の中心に立ち、説教のようなものを始めた。俺たちは何を話しているのかよく分からなかったが、村中の人々の顔つきは真剣そのものだった。
その後、奇妙な儀式が始まった。何人かの若い村人が、広場の石碑を囲んで円を作り、歌い始めた。その歌声は、不思議でどこか悲しげな響きを持っていた。また、村人たちは順番に石碑に触れると、一礼をしていた。あまりにも神聖な雰囲気に、俺たちはただ静かに見守ることしかできなかった。
祭りが終わったころ、ふと思い立った俺は、祭りについてもっと知りたいと思った。村人の一人に、あの石碑にはどんな意味があるのか尋ねてみた。しかし、彼は困ったように笑うだけで、具体的なことは教えてくれなかった。ただ、「昔から伝わっているものだ」とだけ答えてくれた。
民宿に帰ると、他のメンバーも同じように祭りについて知ることができずにいた。結局、誰も何も教えてくれないのだから、こちらも深入りするのはやめようということになった。
その日の夜、何かに引き寄せられるように俺は一人で村の散策に出た。静まり返った村を歩いていると、偶然にも祭りで会った村人と出くわした。彼は俺を認めると、不意にこう言った。「よそ者はあまり深く関わらない方がいい。」その言葉が不気味に響くと同時に、俺は少し背筋が寒くなった。
翌日、俺たちは予定通り村を去ることにした。帰り道、ふと気になって村の周りを見渡すと、一つの違和感に気づいた。道中によく立ち寄った広場には、どこか不自然な静けさがあったのだ。村の人々が何を守るためにあの石碑にこだわっているのか、その答えは最後まで分からなかった。
都心に戻った俺たちは、あの村での体験を不思議な思い出として語り合った。しかし、今でもあの村についての話題になるたびに感じる、心に引っかかる何かを俺は捨てきれないでいる。あの祭りの本当の意味と、あの石碑に秘められた何かは、今も答えが出ないまま、俺の中に静かに暗い影を落としている。