謎の音と秘密の木箱

違和感

あれは大学時代、僕が一人暮らしをしていた頃の話です。古い木造アパートの二階で、正直あまり居心地が良いとは言えない場所でした。でも、学生の身分には家賃が安いのがありがたく、特に文句もなく住んでいました。

ある晩、いつものようにレポートを書いていると、部屋の隅から小さな音が聞こえてきたんです。最初は気に留めませんでした。古い建物だから、こうした音は日常茶飯事とでもいいますか。そのうち、音がだんだん大きくなってくるように感じました。小さなカサカサという音から、ボリボリと何かをかじっているような音に変わったんです。

夜も遅かったので、「ネズミかな」と思い、電気をつけて調べることにしました。しかし、光を灯してもどこにも動物の姿はなく、音も止んでしまいました。奇妙に思いましたが、それ以上気にせずに翌日も普通に過ごしました。

しかし、その夜もまた同じ音が現れました。今度は少し違いました。壁の中から話し声とも思えるような囁き声が聞こえてきたのです。もちろんそんなことはあり得ないと思い、壁に耳を当ててよく聞こうとしましたが、声はすぐに消えてしまいました。

こんなことが数日続きました。音は毎晩現れ、最初は小さな音が、次第によりはっきりした音になっていきました。そしてその度に、電気をつけて音の出所を探しても、何も見つからないのです。

ある夜、いつものようにその怪音が聞こえてくると、何かが違っていることに気づきました。その音は、まるで僕を呼んでいるように感じられ、その瞬間、怖気が走りました。「来い、来い」と誘うような、そんな音だったのです。

翌日、僕は大学の友人にこのことを話しました。友人は興味津々で、「僕もその音を聞いてみたい」と言って、翌晩僕の部屋に泊まりに来ました。友人もまたその音を聞くことができたのです。「確かに何かがおかしい」と、彼も言っていました。

その後、二人でアパートの管理人さんに話をしに行きました。でも、管理人さんは「ネズミでしょ?古い建物だから仕方ないね」と軽く流してしまいました。でも、僕たちは諦めずに、アパートの周りを調べることにしました。

すると、裏庭の地面に小さな木箱が埋まっているのを見つけました。むき出しの部分はほとんどありませんでしたが、何かの拍子に露出したようでした。僕たちは掘り出してその箱を開けてみました。中には古い写真や手紙のようなものが入っていて、内容は理解できないものばかりでした。ボロボロの紙には、見知らぬ名前と住所が書かれているだけでした。

ますます謎は深まり、僕たちはその夜その箱のことを忘れたいと思っていました。しかし、不思議なことにその夜から音はぴたりと止んだのです。

それから数日経って、僕は何となく居心地の良さを感じるようになりました。音が消えたことで、あの場所に何かが閉じたのではないかと、そんな気さえしました。しかし、これで終わりではありませんでした。

ある日、大学から帰ると、部屋のドアに何か貼り紙がされていました。それは、簡単なメッセージでした。

「探してくれてありがとう。」

一瞬、意味がわかりませんでした。誰かのイタズラかと思いましたが、投稿者の名前もなく、ただそれだけが書かれていました。それを見た瞬間、あの箱のことが頭をよぎり、急に寒気がしました。

それ以来、僕はその部屋を出ることを決意しました。引っ越しが決まるまでの数日間、テープレコーダーを使って部屋の様子を録音することにしました。でも、何も録音されることはなく、ただ静けさだけが残りました。

この話、人にするたびに「信じられない」と言われます。でも、あの時の僕にとっては、何かが確実に起こっていたのです。それが何だったのかは今もわかりませんが、その違和感は今も忘れることができません。

あの部屋は今も誰かが住んでいるようです。その後も何も起こっていないといいのですが、僕は二度とあの場所に近づくことはありませんでした。何かが僕に警告を発していたのか、それとも無意識の中で僕自身が恐怖を作り出していたのかわからない。

ただ、あの日々の経験は、僕にとって非常に不気味な思い出として今でも頭の片隅に残り続けています。あの場所に本当に何があったのか、それを解く鍵はきっと、あの箱の中にあったのかもしれません。けれど、もうそれを探る気にはなれず、ただ淡々と今を生きています。

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