諸々の者よ、聴くがよい。何時の日よりか、この身に訪れし恐るべき体験を語り継ぐことを余儀なくされたるを。然して、この語りは戯れであるに非ず。吾が日常に起きし異変、汝らが思う日常の陰に潜みし不可知の存在に注意を喚起するための啓示である。
始まりは、それはただの平穏なる日常であった。天は曇天に覆われ、生きとし生けるものは、闇に包まれることのない当たり前の一日であると思いしが、然し、その影に何者かが潜みありて、悉くを見守り、時至ればその姿を現すものとなりぬ。吾は、このことを何人も知らず、ただ己が日常を送るのみでありけり。
その日、吾は通い慣れた道を行き、帰る途にて心地良き風を感じたり。然れど、その風に異変の兆しあり。耳に届かぬ囁きが何処からともなく聞こえくるを感じ、それがこの身を凍てつかせたるものなり。吾は、その声の主なぞ知る由もなし、されど、如何なる神秘、或は異形のものが、些かの時間我を監視せしことを覚えたり。
或る日のこと、吾が罷り帰る家にて、不思議な出来事が発生たり。次第にその影は濃くなりて、眼には見えねども、何者かが吾と共にあるを確信せんこと葉無い心情を抱くに至りぬ。遂には、深き夜にその手触れを感じ、この身に直接、何者かの意思を伝えられたるが如く思えたり。この感覚は、まるで無形なる神の使者が、我が魂を直接伝えんがためにしのび寄りたる状態なり。その夜、吾は眠られず、終始、あたりを見回しつつ、静寂の中に響く者らの動きを感じむとしけり。
次なる日は、朝日が昇ると共に、吾は日常業務に戻ることを余儀なくされり。されど、その異なる感覚はますます強く感じられしが故に、次第に恐怖と不安に苛まれたり。この新たな感覚は、自己の呼吸すらも異常に感じさせ、まるで異界の者が己の思いを支配せむと試みる者たるを自覚するに至りぬ。
吾が不安は頂点に達し、現世のものが見えぬ幻像をも感じるに至らしむ。その日は終に近付き、夜気は冷たく静まり返り、我が家庭は闇に包まれたり。吾の心重く、肉体は如何なる鎖に縛り付けらる如く動けぬ状態に、とっくに及びぬ。だが、暫しの後、いざ起きむとせしとき、目を向けたる壁に影が生まれたり。
信ずる信ぜざるに拘らず、漆黒の影は、吾が眼前にて姿を成し、まるで魂なき漂流者が、何ゆえに現れ出てきたるかを問わんとしてあらわれけり。声なき声が吾に這いより、その影が何者か、如何なる者の意図が働きたるかを求むること、まるで神の啓示の如し。されど、答えは聞こえず、ただ影は消え去り、吾はただ静けさのみを残されぬ。
そののち、如何なる現象は事象として現れることなかれど、この経験より我が意識は更なる次元の存在を感じ続け、巨大なる運命の輪が, 見えざる暗黒の世界と光の世界を結びて、我々を導かんとす。人の知り得ざる境界に於いては、此れは単なる幻想にあらず、また心理の偶然にさえあらず。吾の心中を去り行くことなく、幾年の後なれども尚、甦りて我が心魂を震撼せしむ。
吾がこの体験を伏して語りしは、如何なる人智を超えたる存在に対する畏怖からぞ。人間の世界に入れられし諸君が、外的なるすべてを穿つこと、また己が確かなる存在を自覚することを促すためなり。如何なる小さきものでさえも、実は無限の宇宙に於る一部分たりしことを、決して軽んずることなかれ。かくて吾は見、本当の世界の一端に触れ、更には諸君もまた、それを拒むことあらざることを願い終えん。