竹林の怪異とトウビョウの謎

妖怪

## **手記:八月一日**

昨晩、私は不思議な夢を見た。深い霧の中、古い寺院の前に立っていた。風が吹き抜け、竹の林がざわめく音が全身を包んだ。何かに見られているような気配を感じて振り返ると、背後には人の形をした影があった。しかし、目を凝らしても影の詳細はつかめず、まるで視線が霧に溶けてしまうかのようだった。ただ、その存在からは強烈な何かを感じて恐怖が全身を駆け巡った。

## **手記:八月四日**

村の老人たちとの話から、このあたりに古い伝承があることを知った。「トウビョウ」という妖怪で、竹林の主とも言われているらしい。彼らは竹の葉の音に姿を隠し、時を超えて人々を見守っているという。しかし、彼らの怒りに触れるとひどい目に遭うらしい。老人たちによれば、この地域ではかつて何人もの行方不明者が出たようだが、その多くは竹林に入った後戻ってこなかったという。

## **手記:八月六日**

夢の中の寺院が気になって仕方がない。今日は思い切って、竹林を探索することにした。奥深く進むと、やはり夢と同じ古びた寺院がそこにあった。苔むした石段を一歩一歩踏みしめながら登ると、心臓の鼓動が妙に大きく聞こえた。寺の扉を押し開けると、室内には誰もいない。だが、そこに佇むだけで圧倒的な存在感が襲い掛かってくるようだった。

## **手記:八月九日**

夜になり、再び夢を見た。今度はトウビョウの姿がはっきりと見えた。竹の葉をまとった白い影が、優雅に踊るように私の周りを巡っていた。その動きと共に、いくつかの人影が彼に崇拝するかのように膝をついている姿が見えた。彼らはどこか無表情で、夢の中の私もその中に引き込まれていくのを感じた。

## **手記:八月十一日**

竹林に入ると、視界の端に何かが動くのを感じるようになった。まるで竹が何かを隠しているかのように見える。ふと耳を澄ますと、明らかに何者かがこちらを見ている気配が感じられる。だが、振り返るとそこには何もない。風が吹くたびに竹の葉がささやくような音が響き、その度に背筋が凍る思いをする。

## **手記:八月十五日**

今日、寺院の近くで古い巻物を見つけた。そこには、トウビョウを静めるための儀式に関する記述があった。どうやら特定の日に特定の供物を捧げることで、トウビョウの怒りを鎮められるらしい。しかし、その詳細があまりにも曖昧で解読が難しい。供物は「人の気」としか書かれておらず、その意味がわからない。

## **手記:八月十八日**

再び夢を見る。今度は私自身が竹の葉に覆われ、トウビョウのそばに立っていた。ふと周囲を見渡すと、これまで行方不明になった人々が私の周りに集まり、一人一人が私に何かを訴えかけるように見つめてくる。私はその視線から逃げ出したくなったが、体は動かなかった。

## **手記:八月二十一日**

現実と夢の境界が曖昧になってきた。竹林に入るたびに、夢で見た人々の顔が脳裏に浮かぶ。彼らはなぜこんなにも私を見つめるのだろうか?そして私自身も、彼らに呼ばれているような気がする。気が狂いそうな恐怖に駆られ、自分自身を保つのが難しい。

## **手記:八月二十五日**

私は今日、供物を捧げることにした。古い巻物によれば、それによりトウビョウの怒りを鎮め、彼らが再び静かになるという。しかし、心のどこかでそれが間違っていることを感じている。「人の気」とは、一体何を意味するのか。それに触れたら、もはや戻れない気がしてならない。

## **手記:八月三十日**

あれから数日、何も変わらない。むしろ、竹林の気配が強くなってきているようにも感じる。トウビョウは本当に私を許したのだろうか。それが分からないまま過ごす日々は、恐ろしさが増すばかりだ。

もう私は狂っているのかもしれない。トウビョウのささやきが、もう私の耳元で絶えず聞こえる。彼らは何を求めているのか、理解できない。だが、この手記を読む誰かが、この怪異を解決してくれることを願う。

もし、私がこの手記を残した後も行方不明のままであれば、どうかトウビョウを鎮める方法を探してほしい。この竹林に秘められた謎を解き明かし、私たちを解放してほしい。私の姿が未来永劫、竹の葉に隠されたままでないことを、心から祈っている。

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