禁断の霊場探索と翔太の覚醒

霊場

深い蒼の夜空に、幾多の星々が輝いている。だが、その光はどこか鈍く、まるで見えない力がこの世とあの世を分かつ帳を厚くしているかのようだった。古びた神社への道を進む青年、名を翔太という。彼は数年前に都会からこの田舎の村に移り住んできた。今日の目的は、村の周囲で聞かれる「禁断の霊場」についての探求である。

村の者たちは口を揃えてその神社に近寄ることを禁じられていると話していた。どんな存在が祀られているのか、なぜそこが恐れられているのか、翔太はその理由がどうしても知りたかった。探求心に駆られた彼は、夜の帳が降りるのを待ってこっそりと家を抜け出した。

月明かりが差し込む森の小径を進む中、冷たい風が彼の肌をかすめた。周囲には奇妙な静寂が漂い、草木さえも音を立てることを憚っているかのようだった。しばらく進むと、朽ち果てた鳥居が彼の前に現れた。木々に覆われ苔むした鳥居は、悠久の時を感じさせる。しかし、そこには何か異様な気配が漂っていた。

「本当にここでいいのか?」

声が出ることに驚いた翔太は、自らに問いかける。しかし、好奇心に押されるまま一歩、また一歩と足を進めた。鳥居をくぐると、先に現れるのは緩やかに続く石段である。その石段はまるで過去から現在へと紡がれる物語のようで、その表面には数々の人の思念が刻まれているかのようだった。

石段を登りきると、彼の目の前に広がるのは封印された本殿だった。かつてはあでやかな朱に彩られたその木々は、今や色あせ、時間に取り残された亡霊のようだった。何故ここまで荒廃してしまったのか、誰にも語られずに放置されていたこの場所には根深い秘密がありそうだった。

彼が本殿へと一歩近づくや否や、冷たい風が彼の耳元で囁くように吹いた。「帰れ……ここに来るべきではない……」。頭の中で声が反響し、翔太の心を乱す。だが、その怪異は彼の探求心をさらに掻き立てた。

本殿の扉は固く閉ざされていたが、どうにかして中を覗き見ることができないかと、彼は周囲を探索し始めた。古ぼけた建物の隙間をそっと覗き込むと、中には薄暗い祭壇とともに、埃をかぶった古びた御神体が鎮座しているのが見えた。だがその瞳には生気がなく、少しの動きも感じられない。

翔太が目を凝らして見つめていると、不思議なことに時間がゆっくりと流れ出し、現在と過去の狭間に飲み込まれたような感覚が彼を包んだ。かすかな声が再び耳に届く。「守れ……我らを……」

その瞬間、強い光が放たれ、周囲を包み込んだ。翔太は目を開けると、そこは過去のまた別の時間と場所であった。村の人々が何かを恐れ、神社の周囲に結界を張っていたのだ。彼はこの光景を見ながら、神社に刻まれた禁忌とその背後に潜む因縁を垣間見た。

突然の衝撃が彼を現実に引き戻す。彼が意識を取り戻したとき、彼の周囲にはかつて見えなかったものが見えていた。それはいつの間にか本殿を囲む数多の霊的存在たち。彼らの視線はまっすぐに彼に向けられ、その無数の眼は彼を試すようにただ見つめていた。何者かが彼に問いを投げかける。「何故、ここに来たのか」

翔太は直感的に答えた。「この場所を知りたかった。何が祀られているのか、どのような思いがここに残されているのか。」

霊たちは静かに彼を見守る。それぞれの霊が持つ物語、歓喜と悲哀、希望と絶望、すべてが彼の心の内で語られる。すると彼の心の奥底から何かが込み上げ、それが言葉を通じて発せられた。「この場を知ること、それが我が役目。」不思議な静寂とともに、霊たちは一斉に消え去った。

静寂が戻った。翔太は再び一人きりとなり、足元にはかつて見たことのない光を帯びた勾玉が一つ転がっていた。それを手に取り、彼は深い呼吸をして目を閉じた。数瞬後、彼の内に奇怪な安堵感が広がり、「触れてはならないもの」の謎に一歩近づけた気がした。

夜が明けると共に、彼はこの奇しき夜について語ることのないまま、静かに日常に戻った。しかしその内心には、あの日出会った存在たちへの敬意と共に語るべき物語が、一つ増えたのだった。翌日から彼がその神社のことを村人たちに話すことはなかった。ただ、その神秘的な出来事を胸に秘めながら、村の暮らしの中で生き続けた。

その神社には今も変わらず、千古の秘密と禁忌が眠り続けている。ただし、それを知るのに相応しい者が現れる日が来るまでは、沈黙のまま。その沈黙を破ることなく、翔太もまた新たな日々を迎えることとなった。そして彼はいつしか、村の伝承を守る語り部となり、生き続ける物語の一部となったのだ。禁じられた聖域の物語は、次の代へと紡がれていく。

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