禁断の科学:人間改造プロジェクトの真実

人体実験

僕がその研究施設で働き始めたのは、大学を卒業して間もない頃だった。施設の名前はここでも伏せておこう。しかし、一流の科学者たちが集うその場所では、まさに最先端の研究が行われていた。僕がそこで何をしていたのかを全て話すわけにはいかないが、人の心や体がどこまで変えられるのか、どこまで科学が人間を進化させられるのか、そういったテーマに挑むものだった。

ある日、上司からとある極秘プロジェクトに参加するよう命じられた。プロジェクト名は「プロメテウス」。古代ギリシャの神話に出てくる神の名前だが、その内容は恐ろしいものだった。主な目的は、人間の身体能力を極限まで引き上げることだった。体育会系の学生が聞けば耳を疑うような、信じられないプロジェクトだ。しかし、そこには莫大な資金が投入され、多くの研究者が無言の圧力の下でその開発に取り組んでいた。

僕自身もそのプロジェクトに足を踏み入れた日から、倫理観が揺らぎ始めた。研究に使われる試験体、つまり人間の被験者は、ホームレスや身寄りのない者たちだった。彼らには少額の報酬が与えられ、それに釣られる形でこの実験に参加していた。しかし、実験台に上がる前に彼らの同意を得たのかどうかさえも定かではない。

最初の内は、彼らの身体に一時的な変化をもたらす程度の施術が行われていただけだった。筋肉の増強や感覚の鋭敏化といったものだ。これらの実験は、一定の成果を上げていた。しかし、ある時から異変が起き始めた。被験者の中に、身体が急激に異常成長したり、肢体がねじれたりする者が現れたのだ。

実験室に漂う沈黙は次第に重く、そして不気味なものになっていった。被験者たちの苦悶する表情や、異様に硬直した体を前にして、僕たちの間には恐怖が広がった。しかし、誰一人としてここで手を引くことはできなかった。このプロジェクトが行きつく先を知りたくないはずなのに、一度関わったが最後、止めることなどできないのが現実だった。

そしてある日、僕は施設の奥深くにある、立ち入ることを禁じられていた部屋への鍵を偶然手に入れてしまった。そこには、このプロジェクトにおける全ての「成果」が収められていると噂されていた。好奇心と恐怖が入り混じった状態で、僕はその鍵を使ってしまった。

中に入った瞬間、僕の全身が震えた。部屋には、多数の瓶やビーカーが並び、その中には人間の各種器官が保持液に浸されていた。さらに奥には、大型のガラスケースに収められた生体サンプルがあった。そこに横たわるものは、既に人間の形を成していない、言葉では言い表せないほどの異形だった。

その瞬間、僕はこのプロジェクトが元来どんなものだったのかを理解した。これは人間の能力を高めるためのものではなく、人間を根本的に作り替えるためのものだったのだ。そして、その事を今まで誰も知らなかったわけではない。知っていて、ただ見ぬふりをしていたのだ。

その日から、僕は寝ても覚めても不安が付き纏った。倫理観はもはや風前の灯に過ぎず、どこまでが正しいのかの判断がつかなくなっていた。そして、研究はますます過激化していき、誰が止めることができるのだろうかとただ怯えるだけの日々が続いた。

研究者たちの中には、このままでは自分たちも「実験体」にされるのではないかと恐れる者もいた。実際、その施設から姿を消した者も何人かいた。僕もまた、いつ自分が消されるのかと恐れていたのだ。

ある夜、僕は意を決して施設を去る決心をした。自分の荷物をまとめて、その夜に逃げ出したその格好は、研究者というよりも囚人だったかもしれない。振り返らずに、ただひたすら逃げた。

今、こうしてこの体験を書き残すのは、自分が経験したことが事実であることを証明したいからだ。しかし、それ以上に、誰かがこの狂気の連鎖を断ち切ってくれることを願っている。科学が人間の域を超えたとき、それが引き起こすのは想像を超える恐怖でしかないと、僕は身をもって知ったのだから。

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