禁忌の神社と恐怖の夜

霊場

夜がその暗幕を町に広げ始め、太陽が地平の彼方に沈んでゆく頃、私はその神社に向かって歩いていた。名も知らぬ田舎町のはずれ、古い木々が生い茂る小高い丘の上に鎮座するその場所は、地元の者たちから「触れてはならない」と恐れられる聖域だった。古びた鳥居をくぐった瞬間、ひんやりとした空気が肌を刺し、私は軽い戦慄を覚えた。

苔むした石畳を一歩一歩踏みしめながら進むと、木立の間から仄かな灯りが見えた。常夜灯が地面を薄明るく照らし、その奥には拝殿が静かに佇んでいる。老朽化した木造の建物は、風雨にさらされ何十年も過ごしてきた風情を醸し出していた。それは時代に取り残されたかのようで、今にも崩れ落ちそうな印象すら与えた。

私は誰に追われるでもなく、ただ何かに導かれるようにその場に足を運んでしまった。かつては栄華を極めたであろうその神社も、今は参拝者の姿もなく、忘れ去られた存在となっていた。人々はここで何が起こったのかを語ろうとはせず、その理由を知りたがることもなかった。ただ一つの言い伝えが残されているだけだった。

「この神社に棲む神は、禁忌を破る者を容赦なく裁く。」

木々のざわめきが、耳元でささやく声のように聞こえる。私は拝殿の前に立ち、ただその静寂に飲み込まれていた。境内全体が息をひそめ、時折風に揺れる木の葉の音だけが、唯一の生命の気配を感じさせた。

そのときだった。私の背後に、確かに人の気配を感じたのだ。振り返っても、そこには誰もいない。ただ闇が広がるばかりで、月明かりさえ遮られている。その瞬間、私は禁忌の存在を初めて意識した。果たして自分のすべきことは、引き返すことだったのだろうか。

しかし、一歩を踏み出すたびに、何かが私をここに足止めさせようとしていた。直感的な恐怖が背筋を駆け上るが、それ以上にこの場所の謎を知りたいという欲求が心の奥底から湧き上がってくる。

もう一度振り返り、鳥居方面を見渡したが、そこには漆黒の闇が広がっているだけだった。まるで世界から切り離されてしまったかのような孤独感が押し寄せてきたとき、不意に鈴の音が耳に届いた。それはまるで、催眠のように心地よくもあり、同時に底知れない恐怖を呼び起こす音だった。

その音に導かれるまま、私は拝殿の中へと足を踏み入れた。古い木材が軋み、私を歓迎するかのように古びた空間が広がる。かつては豪華だっただろう祭壇も今は色褪せ、神が宿る象徴であった御神体も失われたかのようだった。一陣の風が吹き抜け、長い年月を感じさせる埃がふわりと舞い上がる。

だが、ただの空虚な空間ではなかった。奥に立つ大きな御簾(みす)が、一瞬まるで何者かの手によって揺らされたかのように動いたのだ。その動きが作る影が、まるで生き物のように蠢いて見えた私は、心の内で次第に増長する恐怖と好奇心の狭間で揺れていた。

この神社は何を隠しているのか。なぜこれほどまでに人に恐れられるのか。答えを見つけたくて、私は思い切って御簾を開けようと手を伸ばした。その瞬間、背後で響いた人の声が、私を凍りつかせた。

「戻れ、さもなくば…」

耳を貫いたその低い声、男とも女ともつかぬその声は、私の身体を金縛りのように押さえつけた。あたりを見回しても、そこには誰の姿もない。ただ木々が風に揺れ、微かなざわめきが彼方から聞こえてくるのみだった。勇気を奮い起こし、もう一度振り返った時、全身が硬直した。

拝殿の入り口に佇む影、それは人影と言うにはあまりに異質で、不自然なほどに長い髪がその顔を隠していた。声を発することもままならず、ただその場に立ち尽くしていると、影がまるで液体が流れるかのようにこちらに近づいてきた。

本能的な全身の拒絶が、私に背を向け走り出す力を与えた。抜けるような暗闇の中を無我夢中で駆け抜け、何度も転びそうになりながら境内を走り抜けた。鳥居を抜け、ようやく町の街灯の下までたどり着いた時、私は地面にへたり込んだ。

後を振り返ることさえできず、ただ荒い息をつくばかりだった。確かにあの神社には何かがいた。人知を超えた何か恐ろしい存在が、しかし同時に魅惑的な禁忌があった。私はその存在を、真に知ってしまった。

触れてはならない、そう言われたにもかかわらず、神秘と禁忌がその恐怖を一層際立たせる。私は決して忘れることのできない恐怖を、その夜に体験したのだった。それでも、長い時間が経つにつれて、その体験が遠い夢の中の出来事であったかのように薄れてゆく。

だが、一つだけ心に刺さったままの感覚があった。「戻れ、さもなくば…」それはまるで、まだ何かが待っているという予感を感じさせた。再びあの神社を訪れることはないと誓ったが、いつかその禁忌の扉をもう一度開けることがあるのではないかという恐れが、心の片隅に巣食っていた。そんな自分の中の奇妙な誘惑と、恐怖が混じり合う感情を理解するには、時間はあまりに少ない。

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