最近のことだが、私はある奇妙な体験をした。それは、都会の喧騒を離れて山奥の小さな村を訪ねたときのことだった。仕事のストレスから逃れるため、友人の勧めでその村に行ったのだ。友人の実家があるということで、数日の滞在を許してくれた。村は自然に囲まれた美しい場所で、初めて到着したときはその静けさに心が洗われるようだった。
村には、古くから地元の人々に「触れてはならない」と囁かれる神社があった。神社は山の中腹に位置しており、村人たちは決して足を踏み入れない禁忌の場所とされていた。私はその話を聞くと、逆に興味をそそられた。都会暮らしで慣れた好奇心が、何か特別なものを求めていたのかもしれない。友人は「本当に行くの?」と心配していたが、私は「大丈夫だよ、ちょっと見てくるだけだから」と軽く答え、その翌日、神社に向かうことにした。
神社への道は薄暗く、木々に覆われた狭い山道だった。途中、古びた鳥居が現れ、その先に続く石段が厳かさを醸し出していた。辺りは静まり返り、私の足音と、たまに聞こえる動物の鳴き声だけが響いていた。鳥居をくぐると、さらにひんやりとした空気が鼻を突いた。何か異様な雰囲気を感じつつも、好奇心が勝り、石段を登り続けた。
しばらくすると、小さな神社が見えてきた。苔に覆われた屋根と、どこか物悲しい佇まいが印象的だった。社殿は古びており、長い間手入れがされていないことが一目でわかった。私はふと、社殿の脇に目をやった。そこには小さな木の祠があった。おそらく地元の信仰の対象なのだろう。特に目立つような装飾はなかったが、何か異様に感じた。
近づいて祠を覗き込むと、中には白い紙垂がたくさん積まれていた。その紙垂は、何度も何度も人の手によってお供えされ続けたものだろう。薄暗い中で紙垂が白く浮かび上がり、私はなぜか背筋が寒くなった。ここに存在する何かが、私の訪問を歓迎していないように感じたのだ。
その時だった。急に冷たい風が吹き抜け、周囲の木々がざわめいた。あまりに突然のことに驚き、足を踏み外しそうになった。慌ててあたりを見回しても、誰もいない。まさかと思いながらも、これは一種の警告なのかもしれないと思い始めた。
その瞬間、耳元に誰かのささやき声が聞こえた。「帰れ…触れてはならぬ…」。それは確かに、私の耳元で囁かれた声だった。私は恐怖に駆られ、急いでその場を離れた。気づけば、息を乱し、山を駆け下りていた。
村に戻った私は、友人にその話を打ち明けた。彼は驚き、そして少し呆れたように言った。「会ったんだな…あそこの神様に」。村では古くから、その神社には何かが潜んでいると信じられていた。それは地元の人々や信者たちが何世代にもわたって祀り続けてきた、決して触れてはならない神の存在だった。
友人は続けて説明した。村では度々、禁忌を破って神社に近づいた者が不幸な目に遭ったという話が伝えられているという。彼らは何らかの代償を払わなければならなかった。そして何より、私はあの場所に存在するものの力を確かに感じたのだった。
その日以来、私は時折あの冷たい囁き声を夢に見るようになった。「触れてはならぬ…」という声が反響し、目が覚めると心臓が高鳴っていた。それは、今でも続いている。
この体験から学んだことは、すべての場所にはそれ相応の理由があるということ。そして、どれほどの好奇心があろうとも、他者の信仰や禁忌を軽んじてはならないということだ。私にとってあの神社の記憶は、決して消えることのない恐ろしい体験として心に刻まれている。今、私がこうして語るのも、自身の無知と愚行から得た教訓を他の誰かに伝えたかったからに他ならない。どうか、皆さんも気をつけてほしい。触れてはならぬものが、この世界には存在するのだから。