禁忌の社と久遠の物語

霊場

遥かなる時の彼方、古の地に於いて、人々の目を避けつつ聳え立つ神秘なる社が在りき。名も知られぬその聖域は、森深くに佇み、獣すら近寄るを畏れる場所なり。そこに宿りし力は、星の運行とともに天地を支える神々の意志を宿し、かの地を訪れる者に畏怖を持って迎えるとされし。

さて、ある時のこと、若き男、名は久遠なる者、野心に満ちたる心を抱きて、その地に足を踏み入れたり。彼は己が運命を狂おしきまでに求め、古の知を手に入れんと欲したり。しかし、見るべかざる扉を開けることは許されず、禁忌の門前に立つこといつよりも大いなる愚行なり。

その社は常世の霧に包まれ、剥き出したる厳粛なる佇まいを見せ、彼は自身の行為を省みることなく、一歩また一歩とその神聖なる境内に踏み入りけり。空に浮かぶ光は彼の行く手を示し、さながら運命の導きのように輝きたり。しかし、彼の耳に聞こえるは風の唸りと共に、幽かにささやく者たちの声なり。

社の堂は静まり返り、時の刻みさえも止まりし如く、彼は足を進めたり。彼の目が捉えるものは、彫り込まれし古の文様、神の意志を告げる文字にて、彼の心に不安の影がよぎりけり。だが、その求めるものは、彼に進み続けることを促してやまなかった。

その奥深く、社の本殿に至るも、彼の目に映るは封印されし扉なり。この結界は神々の力が封ぜられし場所、その背後には不可視の領域が待ち受け、彼の心を試すものとなりぬ。扉に触れたる瞬間、地は轟き、空は裂け、彼の魂に刻まれし警告を打ち消すべく、恐れし気配が四方より押し寄せたり。

久遠の者は、地に座し込みしが、視界は暗転し新たな世界が彼の眼前に開かれたり。それは高天原の如く聳える神々の集いし地なりや、否、煉獄の如き修羅の世界なりしや。彼の知ること能わず、ただ畏れと嘆きを胸に、目の前に立ち現れし影を認めたり。

その影は、失われし者の祭司たちの一人、その面には言葉には出せぬ神秘なる力を宿し、久遠を見下ろし語りかけたり。「愚かなる者よ、ここに何を求むるか。我らが秘跡は、時の流れに飲まれし末、どの者も触れることを許されぬ。されど御身は門を叩き、禁忌を侵しけり。我らが怒り、神々の裁きを待たん。」

小さき者は、己が過ちを知るも、時すでに遅し。影の者は手を伸べ、久遠の者の魂を覆い包みて、彼にかりそめの啓示を与えたり。それは、彼の求めた力と知識に形を変え、人の理解をはるかに超えるものでありぬ。

かくして久遠は、社を離れし後、地上に帰還すとの望みを抱けども、その身には何者かを宿したるような苦痛を伴うた。彼はもはや人の者にあらず、人と神との分岐にある者なり。為ることすべては虚構と化し、彼の心は裂けし時空の狭間を彷徨い続けたり。

久遠が足跡を残した在り処には、何も無きがごとき静寂と、時たま吹く冷風にそよぐ巫女の囁きにて、社は再び眠りにつきたり。聖域は今なおその意味を秘め、触れてはならぬ禁を守り続けるなり。この地を訪れし者たちは常に、古の叡智に隠れし試みに試されるべしと伝えられ、後世に語り継がれ行くべき話となりき。

斯かくして、その社の物語は誰も住むことなき、時と共にただ静かに生き、大いなる者らが見守る地として、忘却の彼方へと沈み行けり。あの久遠なる者は今や何処に居るや知れず、ただ彼の物語が風の中に紡がれ、時の彼方で永遠に語られ続けるものとならん。

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