禁忌に屈した科学者・ウツロの狂気と崩壊

人体実験

しかれども、世の理を超え、生ける者の均衡を破る者あり。彼、名をウツロという人の子なる科学者なり。世に言われし賢者にあらず、寡黙にて孤独を友となし、闇に隠れし研究を行いて、禁域へ踏み入れんとせし者なり。

ウツロ、深き山中の研究所にて、密かに己が試みを執行せり。彼の目的、それ、命の根源たる力をもて、肉体の限界を超越さんとすることにあり。秘伝の書を開き、古の言葉に耳を澄まし、鬼神たる知識を得て、人体実験をためらわず行えり。法の目、彼を捕らえず、倫理の声、彼の耳に届かず、ただ己の目的に従い、進みて行けり。

彼が手にしたる書、曰く『ウタツカヒの巻』、人知の及ばざる賢者が綴りし秘儀の集大成なり。これ、血と肉を繋ぎ、命の糸を捻じ曲げ、運命の枠を壊さんとする書なせり。ウツロ、これを読み解き、呪われたる言葉を織りなし、実験を始むる時、天変地異の如き現象が起きぬ。

「イツツノヒカリカガヤク時、命ノ形ヲ変エン」と書かれしその言霊に、ウツロは狂気の眼をもって応えたり。遂に彼は、異界より生まれし蛇の如く、五体を絡ませ一体に仕立つ実験、人を揺るがす宴を演じたり。被験者たる者、彼の声に封じられ、理を失うことを余儀なくされ、無知の業火に焼かれつつその肉体を変異せしむ。彼の目の前に広がるは、生命の粘液に濡れ光る絨毯なり。

実験成なりて、変わり果てし被験者ら、その姿、旧い神話の怪物の如くなる。一度は人とありし者の形、無惨にも崩れ、死と生の境界をまたぐものとなりたり。ウツロ、己が成果に酔いしれつつも、内なる恐怖にさいなまれ、己の行く末を見失う。

「ウツロの名において命じん。この世を越えし力を我に授けたまえ、失われし命よ、新たなる衣を得よ」と、彼の言の葉に重ね重ね誓わんとす。されど実験の果て、予測せざる異形、彼の掌中を離れ出で、制御の網を超えて自由の羽を広げたり。

時来たり、儀は終焉を迎え、変わり果てし者たち地にあたり、いずこへともなく徘徊せり。その声、闇を裂く哀歌のごとく、それを聞く者なし。世の理、裂かれ、境界は失われたり。ウツロ、かの書を再び封じ、惨劇を後にし山中より姿を消せり。彼が知るを求む心、何処より来たりて何処へ去るや。

かくも彼の運命、その結末たるは、この世の常を越えし者の辿るべき道なりや。倫理崩壊の果ての幽暗の道、そこを行く者、誰しも見出し得ず、ただ実験の残り香、世に漂えり。永久に忘れ去られし者たち、森の幽霊となり、その影を曳き続けん。

嗚呼、人の限界を超えし時、訪れるは狂気の宴、その代償求むるもの、命の重さにて還されん。神怒り浸すとき、ウツロの名、永遠に刻まれし第六の巻に記されんとす。されど今は、静かなる森の風やまぬにして、古き言霊、暫しここに眠りを待つ。

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