ある村に、時折人々が忽然と姿を消すという奇妙な噂があった。その村は山深く、人々は自然と共に慎ましやかに暮らしていた。しかし、時折誰かが村から姿を消し、数日後に戻ってくると、その者は何かが変わってしまっていると囁かれていた。私はその噂を聞き、長年の謎を明らかにすべく調査に乗り出すことにした。
まず、村で過去に行方不明となり戻ってきた者たちの記録を集めた。興味深いことに、彼らは実際に失踪の間に何を経験したかについての記憶が曖昧だった。共通していたのは、「以前とは異なる感触を持つ場所にいた」という漠然とした感覚だ。ある者は「緑が青く見える草原」、別の者は「不気味に静かな森」と表現していたが、共通点は何もないように思えた。
また、外に出てきた彼らの周囲の人々は、一様に「何かが違う」と口にした。例えば、表情や仕草、また時には些細な言葉遣いが微妙に変わっているのだ。まるで、同じ肉体に違う魂が入ったかのような変化だった。
次に私は、村の外れにある「神隠しの森」と呼ばれる場所を訪れることにした。その森は、これまでに最も多くの失踪が起きた場所として村で恐れられている。いざ森に入ると、空気が異様にひんやりとしており、何かに見られているような感覚が襲ってきた。それでも私は調査を続けるべく、奥深くへと進んだ。
森を進んでいると、やがて奇妙な場に出くわした。円形に広がる開けた地で、周辺には古い石碑が立ち並んでいた。その場に足を踏み入れると、まるで時間が止まったかのように静まり返った。心拍すらも聞こえなくなり、唯一の音は自分の呼吸音だけだった。
そこで私は、失踪者たちが何かしらこの地と関係があるのではないかと考えた。石碑を詳しく調べると、何やら古い文字が刻まれていることに気がついた。その文字は、地元の古代信仰に関するものらしかったが、意味を解読するには至らなかった。しかし、その文字に触れた瞬間、猛烈な眩暈が襲ってきた。
目が覚めると、私は村の入口に立っていた。時間は日が暮れる前だったはずが、夜の帳が下りていた。どうやら数時間が経過してしまったようだ。何が起きたのか検証しようとしたが、記憶はぼんやりとしていて、一向に思い出すことができなかった。それでも、村へ戻り、自身の調査について村人に報告しようとしたが、何かがおかしい。
私自身は自覚がなかったが、村人たちは口々に「あなた、何かが違う」と言い出した。声の調子や、表情が以前と違うというのだ。その瞬間、まるで走馬灯のように、開けた場での出来事がフラッシュバックした。
再び思い出した場面の中で、あの静寂の中、私は確かに何かと会話をしていたのだ。それは人とも動物ともつかぬ、一種の存在だった。言葉は理解できなかったが、その存在は私に微笑みかけると、何かを私に与えてきた。私は無意識にそれを受け取り、そして意識が遠のいていったのだ。
今でも、その森には入らないようにと、村人たちが口を揃えて言う。私もまた、再びその森に足を踏み入れる気にはなれない。世間一般には神隠しの事件として片付けられるかもしれないが、そこにはまだ何か、理屈では説明できない恐怖が存在しているように思えてならない。私が違う存在になっているのではないかという漠然とした不安は、未だに心の奥底から消え去ることはないのだ。