神社の呪いと封印された怨霊

呪い

私は、ある地方都市に住む普通の会社員だ。大きな事件もなく、平凡な毎日を送っていた。しかし、ある夏の日の出来事をきっかけに、私の日常は恐怖に変わった。

その日、私は友人と一緒に地元の歴史ある神社を訪れた。友人はその神社の近くにある古い家の修理を手伝っており、「今度来たら一緒に神社を見てみよう」と誘われていた。その神社は地元では有名だったが、少し不気味な噂もあった。曰く、「その神社には古い呪いが存在する」と。

どこにでもある都市伝説の類だと思っていた私は、特に気にせず友人と共に神社を訪れた。神社は山の中腹に位置しており、小道を登ると急に目の前に開けた広場が現れる。その中央に、朽ちかけた木造の社殿が静かに佇んでいた。

社殿の周りには、人間の背丈ほどもありそうな雑草が生い茂り、まるで社殿を覆い隠すかのようだった。その光景に、私は一瞬「何か不吉なものが潜んでいるのでは」と感じたが、同行した友人と馬鹿話をしながらその考えを振り払った。

私たちは社殿の周りを一周し、近くにあった小さな祠に祀られている石像を見た。その石像は角の取れた人型のもので、表面は苔むしていた。妙にその石像が気に入り、私は冗談半分に携帯電話で写真を撮った。友人は不安そうな顔で、「やめといた方がいいんじゃないか」と言ったが、気にしなかった。

その後数日は何事もなかった。しかし、ある夜、奇妙な夢を見た。夢の中で私はあの神社の前に立っていた。辺りは真っ暗で、月明かりだけが社殿をぼんやりと照らしている。その時、背後からひんやりとした風を感じた。そして振り返ると、例の石像がすぐ後ろに立っていたのだ。その石像は夢の中でだけ生き物のように動いていた。

飛び起きると、全身が冷や汗にびっしょりと濡れていた。「ただの夢だ」と思い直し、何とか再び眠りについた。しかし、それ以来、夜になると必ず同じ夢を見るようになった。どの夢でも必ず最後には石像が私に近づいてくる。

一週間も経つと恐怖はピークに達し、私は日常生活にも支障を来たすようになった。仕事中にふと石像の冷たい目を思い出し、鳥肌が立つことも多くなった。ついに私は、友人に相談することを決心した。

友人は深刻な表情で私の話を聞き、特に何も言わずに一冊の古い本を差し出してきた。その本には、地元の呪いに関する記述が所狭しと詰まっており、石像にまつわる話も載っていた。

石像は、かつてその土地を治めていた権力者が「怨霊」と呼ばれる悪霊を封じ込めるために作られたらしい。その時代、その土地に住む多くの農民が権力者の圧政に苦しみ、やがて彼らの不満と悲劇が積もりに積もり、権力者自身も祈祷師の助けを借りるまでに至った。その結果、石像に怨霊を閉じ込め、封印することで村の平和が戻ったという。

しかし、その封印が破られかけると、怨霊の呪いが解き放たれ、関わった者に不幸が訪れると伝えられていた。私はその本を閉じ、震える手で膝を叩いた。「どうすればいい?」と聞くと、友人はしばらく考え込んでから、神社を訪問して清めの儀式を行うのが良いと話してくれた。

数日後、私は再び神社を訪れた。友人の助けを借りて、清めの儀式を行った。古い石碑に巻かれた綱に触れ、穏やかな気持ちで手を合わせた。その瞬間、強い風が突然吹き、辺りの木々がざわめいた。まるで、何かが解かれたかのようだった。

儀式を終えてからというもの、夢に石像が出てくることはなくなった。しかし、やはりあの神社には二度と行くべきではないと強く感じ、私はその後、決してその場所に近寄らないようにした。

あの時撮った写真も削除し、友人にはその後、「何もなかったことにしよう」と言い聞かせた。そして、彼も同じ考えだったようで、二度とその話題を口にすることはなかった。

今でもあの時の出来事を思い出すと、背筋が凍る思いがする。しかし、心のどこかで、「本当に何もなかったのだろうか」と疑問に思う自分がいる。

その神社は、依然としてあの場所にあり続け、人々の目の届かないところで静かに時間を刻んでいる。ただ、私にとってその場所は、二度と訪れることのない禁忌の地として記憶に刻まれている。私のような興味本位で訪れる者が、他に現れなければいいのだが、と願わずにはいられない。

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