神社での神隠し体験

神隠し

私は、ある夏の日に体験した奇妙な出来事を今でも忘れることができません。それは、私の地元にある山奥の村でのことでした。当時、私は大学の休暇を利用して、その村に住む祖父母の家を訪れていました。そこでの体験はあまりに不可解で、今でも思い出すたびに背筋が寒くなります。

その村は、ほとんどの現代的なサービスが届かないような場所で、携帯電話の電波もほぼ入らず、夜には漆黒の闇に包まれます。しかし、私はその不便さが都会の喧騒から逃れるのにはちょうど良いと思っていました。村には一つ、古びた神社があり、祖父母はときどきそこで祈りを捧げていました。曰く、その神社は昔から「不思議なこと」が起きる場所として、村人たちから敬遠されているとのことでした。

ある晩、私はどうしてもその神社が気になり、夜中に一人で行ってみることにしました。月明かりが頼りない道を照らす中、懐中電灯を手に持って神社に向かいました。神社に着くと、その古びた境内には凜とした空気が流れており、鳥居をくぐった瞬間に冷んやりとしたものを感じました。辺りは静まり返り、聞こえるのは自分の息遣いだけでした。

境内を歩き回り、ふと本殿の前で立ち止まりました。その時、不意に風が吹き、その風に乗ってかすかに誰かの呟き声が聞こえたような気がしました。しかし周囲には誰もおらず、ただの風の音かもしれないと自分に言い聞かせ、その場を離れることにしました。

その帰り道、どうしても背後から視線を感じ続けていました。振り返っても何も見えないのに、その視線はどこまでも続くようでした。家に帰りつく頃には、全身が疲れ果ててしまいました。その夜は何とか眠りにつけましたが、不気味な夢ばかり見ました。

翌朝、目覚めると、どうも村の様子がおかしいことに気付きました。村人たちの顔色が悪く、なんとなくいつもより静かだったのです。祖母に尋ねると、前日の夜に村の少年が一人、行方不明になったというのです。最後に見られたのは、私が訪れた神社の近くでした。私は背筋が寒くなり、急に昨晩の体験が何か関係あるのではないかという不安が頭をよぎりました。

数日が経っても少年は見つからず、村中が不安に包まれていました。そんな中、私はなぜかあの神社にもう一度行かなければならないという強い衝動に駆られました。今度は昼間に友人と一緒に行ってみることにしました。

再び神社を訪れ、私たちは境内を詳しく調べ始めました。そして、ふと私の視線がある一点に釘付けになりました。それは、本殿の後ろに隠れるようにして生えている一本の木でした。その木の根元には、見過ごすほど小さな石碑がありましたが、何か違和感を覚えました。石碑には見慣れない文字が刻まれていました。恐る恐るその石碑に近づき、何とかその文字を読もうとしたその瞬間、強烈なめまいに襲われました。

目が覚めると、私は神社の境内に横たわっていました。周りを見渡すと、友人も同様に気を失っているようでした。そして、何かが違うことに気づきました。空の色が妙に異様で、光がどこか異質だったのです。友人が目を覚まし、私たちは何が起こったのか混乱しました。

急いで村に戻ると、村人たちが困惑した様子で私たちをじっと見ました。そして、一人の老人が「戻ってきたんだな」と呟きました。どうやら、私たちは丸一日以上行方不明になっていたらしいのです。しかし、私たちにはその間の記憶が全くありませんでした。

その後、村の少年も無事に見つかり、彼もまた同様に何も覚えていないと言っていました。ただ、彼の様子はどこか以前とは違って見えました。それ以来、村ではあの神社に関する話はタブーとなり、私たちは二度とその話題に触れることはありませんでした。

時が経つにつれ、私も大学を卒業し、都会での生活に戻りましたが、いまだにあの神社での出来事が頭から離れません。あの場所で何があったのか、そして私たちは一体どこに行っていたのか。その答えは未だに分かりません。ただ一つ確かなのは、あの村と神社は今でも何か異界と繋がっているということだけです。

私が体験したのは、きっと世にも奇妙な「神隠し」なのでしょう。それ以来、私は常に現実と異界の境界線に対する恐怖を感じ続けています。あの神社は、今でも静かにその異様な存在感を放ち、そこを訪れた者たちを誘惑し続けているのかもしれません。私はもう二度とあの村には戻らないと決めています。それでも、いつか何かに引き寄せられるように、またあの場所に足を踏み入れてしまうのではないかという不安は、心の片隅から消えることはありません。

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