神社での不思議な体験と友人への疑念

神隠し

僕がこの体験を最初に話したのは、大学を卒業してしばらく経った頃だった。話した相手は、親しい友人である直樹だ。彼はそんな話が大好きで、僕の話にも興味津々で耳を傾けてくれた。今回は、その話を記そうと思う。

あれは僕が18歳の夏だった。当時、僕は地元の高校を卒業したばかりで、大学に進学する前の自由なひと夏を過ごしていた。田舎の小さな町で、僕のようにどこかへ出ていく人間は少なく、友人たちとも次第に会う機会が減ってきた。そんな時、幼なじみの誠から連絡が来たんだ。

「久しぶりに集まろうぜ。」

誠からの誘いはいつも楽しいものだったから、その言葉に僕はすぐさま承諾した。僕たちはもう一人の幼なじみ、佳奈も誘って、3人で夜のドライブに行くことになった。

目的地は町外れの古い神社だった。その神社は、僕たちが子どもの頃からずっとある場所で、地元の歴史そのものと言えるような存在だった。ただ、最近は参拝客もめっきり減り、少し不気味な雰囲気を漂わせていた。僕たちは夜も深まり、人影もほとんどなくなった頃合いを見計らって、その神社に車を走らせた。

神社に着いたのは、夜の12時を少し過ぎた頃だった。夏の夜とはいえ、山の中にひっそりと立つ神社はひんやりとしていて、蝉の鳴き声も遠くに聞こえるだけだった。僕たちは、持参した懐中電灯を灯しつつ、静寂を破らないように慎重に石段を登った。

神社の境内に入ると、誠が提案した。

「かくれんぼしようぜ。」

こんな場所で、そんな子どもっぽい遊びをするなんてと、少しの躊躇はあったけれど、僕たちは賛成した。誠が鬼になり、佳奈と僕は隠れることになった。僕は境内の奥にある大きな御神木の陰に隠れ、息を潜めて誠が探しに来るのを待った。

しばらくして、遠くで誠の呼ぶ声が聞こえた。「もう見つけた!出てこい!」

声の方へ向かおうとした瞬間、僕は異変に気付いた。急に風が吹き、何かがスッと通り過ぎた感覚があったのだ。それと同時に、体の感覚が一瞬にして鈍くなり、次に気が付いた時には、辺りの風景が変わっていた。

じめじめと湿気を含んだ空気の中、僕は見知らぬ森の中に立っていた。僕がいた神社とは明らかに違う、どこまでも続く木々と、薄暗い空。道もないその場所で、僕は声を張り上げて叫んだが、誰の反応もなかった。

どれくらいの時間が過ぎたのか分からない。僕はただ闇雲に進み、体力の限りを尽くして歩き続けた。やがて、遠くの方にぼんやりと光が見え始めた。希望を胸に僕はその方向へと駆け寄った。

その光源は、古びた鳥居だった。力なく崩れかけたその鳥居をくぐると、再び目の前が明るくなり、僕は戻ってきたことに気づいた。神社の境内に立っていた。だが、おかしなことに、誰もいなかった。僕は大声で誠と佳奈の名前を呼び続けた。

その後、何とか車まで戻り、家に帰ったのだけれど、どうしても消えない不安感が頭を離れなかった。一晩中、あの時のことを考え続け、眠れないまま朝を迎えた。

翌日、誠が自宅に訪ねてきた。彼は普段通りで、昨夜のことなんて気にしていない様子だった。ただ、僕が感じた違和感は缶コーヒーを開けた瞬間に決定的になった。僕が持っているはずの彼の缶バッジが、彼のバッグの中にあったのだ。

その瞬間、全身が凍りついた。僕は、何もかもが「同じ」ではないことを悟った。それ以来、誠や佳奈と集まることはなくなった。あの日、僕がどこにいたのか、彼らが誰だったのか、未だにわからない。ただ一つ言えることは、僕はあの神社で何か「失って」きたということだけだ。彼らは本当に僕の友人だったのだろうか。今でも、それを確かめる術はない。

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