異次元の裂け目で出会った恐怖

異次元

連日の猛暑が過ぎ去り、木々が紅葉し始めた頃、私はある田舎町に足を運んでいた。当時住んでいた大都市から数百キロ離れたその町は、小さな家々が点在し、穏やかな田園風景が広がっていた。秋の涼風が心地よく吹き抜ける中、私は日常の疲れを癒すため、しばし町を訪れることにした。そして、そこで起きた出来事は忘れがたい心の重荷となったのである。

小さな宿屋に一泊目を迎えた夜、私は不思議な夢を見た。黒い霧が立ち込める不可思議な場所で、暗闇の中を漂っているかのような感覚。どこかの遠くから、囁き声が聞こえてきた。「彼方の者たちが目覚める時が来た」と。しかし、眠りの中のことと、私はそれをさほど気に留めなかった。

翌日、私は宿屋の裏手に広がる森を歩いていた。陽光が木漏れ日となり、地面を照らす様は美しく、その静寂に身を浸すことは癒しであった。しかし、ふと視線を上げると、森の奥に一道の裂け目のようなものを見つけた。まるで空間に亀裂が走っているかのように、そこには何か異様なものが存在していた。好奇心にかられ、私はその裂け目に向かって歩を進めた。

近づくにつれ、空気が冷たくなり、鳥の声も次第に遠のいていく。裂け目の向こうには、見たことのない景色が広がっていた。天には重い雲が垂れこめ、そこを這うような影が時折走る。私はその不可解な光景に、足を止めざるを得なかった。

「こちらへ」という声が、どこからともなく聞こえてきた。人の声とも自然の音ともつかないその囁きが、私を誘うように感じた。それは私の心の内側から発せられているかのように錯覚させ、身体は意識に逆らい、その裂け目の向こうへと向かっていた。

足を一歩踏み出すと、周囲の風景は一変した。何もない空間に深い闇が広がり、ただ冷たい霧が漂っていた。心臓が強く脈打ち、その場から動けなくなる。すべてが非現実的で、理性は崩壊し始め、恐怖が身体を蝕んでいくのがわかった。

「私たちは常にここにいる」と、遥か彼方から声が響く。闇の中に無数の目が開かれ、それは私を見ることなく、ただ存在するだけのものだった。それは、感情や意思を持たない、理解を超えた存在であった。しかし、その目に見られることが、どうしようもなく恐ろしかった。

「あなたたちが過去にそこへ侵入した瞬間から、我々は待っていた」と、その声が続けた。それに応じるように、私は声を振り絞り、「なぜ私を選んだのか」と問いかけた。しかし、返答はなかった。彼らがこちらの言葉に反応することはないのだと知った。

その後、私は気がつくと森の中に立っていた。体は震えており、心拍は急激に速まっていた。裂け目は既に消え、そこには何も残されていなかった。現実とは異なる次元を覗いてしまった恐怖から逃れることはできず、その場を足早に去った。

宿屋に戻ってからも、心の中にあの目が焼き付いて離れない。町を離れ、現実に戻ってもなお、夢の中であの裂け目の向こうの世界を見ることが度々あった。そして、あの囁き声が頭の中でこだまする。「彼らはそこにいる。常に、そこに。」

時が経つと、異次元の存在に対する恐怖は次第に形を変え、日常生活に影響を及ぼし始める。次第に友人との会話に集中できなくなることが増え、あの裂け目を思い出すと、どうしようもない絶望感が胸に広がる。理解を超越した存在に一度でも触れてしまった代償は、あまりにも大きかったようだ。

やがて、再び彼らが囁く夜が訪れる。「我々はそこにいる。そしてあなたの中でも。」その声は、現実の声と同じく鮮明であり、私を取り囲み、心の拠りどころを奪っていく。人間とは異次元の者たちによって、いとも簡単に心と思考を支配されうる脆弱な存在なのかと、深い絶望が押し寄せてくる。

その日から、私は異次元の存在に対する洞察を持ってしまったが故に、「見えぬもの」に囚われ続ける日々が続いている。そして、その恐怖は鮮明に続いたまま、私の現実世界へと影響を及ぼし続け、不意に訪れる囁き声は今も消え去ることはない。

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