田舎の家にまつわる心霊体験と供養の物語

幽霊

私はずっと、田舎の古い家に住んでいました。子供の頃からこの家が持つ歴史の中で育ったため、一つ一つの部屋や廊下には、不思議な親しみがありました。しかし、ある日、それは漠然とした不安へと変わり始めました。

家は明治時代に建てられたと聞いており、何度か改築はされていたものの、古い構造物特有の不気味さがありました。特に母屋の一角にある使われなくなった部屋、その部屋には近づかない方がいいと、祖母に何度も言われていました。

ある晩、寝室で寝ていると、何かの気配に目を覚ましました。その日は昼間に妙に疲れていたので、寝つきが早く、ぐっすり眠っているつもりでした。けれど、その目覚めは何かしら異様なものでした。私はしばらく寝ぼけた頭で寝返りを打ち、半分瞼を閉じたまま、意識を覚まそうとしました。

すると、はっきりと気配を感じたのです。寝室のドアがゆっくりと開き、その向こうから冷たい風が吹き込んできました。「風が吹いてる…?」と一瞬思いましたが、窓は閉まっていたし、そんなはずはありません。そして、重い何かがドアの向こうで動く音がしました。

私は直感的にそれが「ただの風」ではないことを知っていました。起き上がることもできず、ただ身を縮めて、その音に耳を傾けていました。その音は、廊下を歩く足音に変わり、次第にこっちに向かってくる。それはやがて私の部屋の前で止まりました。

その瞬間、冷たい汗が額を流れました。心臓は激しく脈打ち、背中を凍りつくような恐怖が走り抜けました。目を閉じたまま祈ったのです。「どうか、通り過ぎて……」と。

その夜は何事もなく過ぎ去り、私の恐怖も徐々に忘れられていきました。しかし、次の晩、そしてその次の晩も、同じことは繰り返されたのです。私はすっかり恐怖に怯え、寝るのが怖くなっていました。

ある日、どうしても我慢ができなくなり、母に相談しました。母は少し驚いた表情を見せましたが、すぐに顔を曇らせました。「あの部屋ね……」と、ようやく重い口を開きました。

母は話してくれました。この家にはかつて、まだ幼い頃に亡くなった親戚のおじさんがいたこと。彼は不幸にも事故で命を落とし、その部屋が彼の寝室だったということを。小さいころからその話を聞いて育った母も、見てはならないものを見ることがあったと言います。

その話を聞いた今でも、何故だか涙が止まらなくなりました。彼は何を伝えたくて、何を求めて、夜な夜な私の部屋までやって来るのだろうか。考えれば考えるほど、何かしらの未練や哀しみが背後に潜んでいるように感じられました。

それ以来、私は勇気を出して、彼の部屋に一度だけ足を運びました。埃が積もり、時間が止まったかのようなその部屋は、過去の悲しみを封じ込めているように思えました。私は静かに手を合わせ、彼の魂が安らかであることを願いました。

不思議なことに、その日を境に、夜の恐怖はすっと消え失せました。それが夢や幻覚だったのか本当に彼の霊だったのか、未だによくわかりません。しかし、彼に何かしらの思いを届けることができたのだと思っています。

この経験を通じて、死者が何かを伝えようとする意味や、残された者がそれをどう受け止めるかについて、少しだけ理解が深まった気がします。霊という存在が何を意味するのか、またどのように対峙するべきなのか、まだまだ私の考えは未熟ですが、この家での出来事を通じて、過去との対話の重要性を今も感じています。

だからこそ、私はあの家を決して忘れはしないし、その歴史を心に留めて生き続けるのだと思います。そして次に新たな家族が、この家に訪れたときには、その話をそっと伝えるつもりです。彼の存在を、彼の思いを、自分だけのものにせず、きちんと次に繋げていくことが、私にできる唯一の供養なのでは、と。

私のこの体験が、皆さんの心に何かしらの影響を与えることができたなら、それはきっと彼の供養にも繋がるはずです。そう信じて、私はこの話をあなたに語ることを選びました。どうか、彼の魂が安らかでありますように。

タイトルとURLをコピーしました