かつて、人の世の歩みが黄昏の闇に包まれし時、血と狂気の影はその地に舞い降りたり。ここに語られしは、一なる忌まわしき物語。聞く者よ、心せよ、これ人の愚かしさの果てに待つ深淵なり。天の帳は裂け、大地は悲鳴を上げ、そして人の心は闇に染まりて狂気の産み落としたる魍魎がその名を響かせん。
ある時、高き山と深き森の入り交じる谷間に、一人の男ありき。その名をユディトと讃えられ、彼の地にて古き村の鍛冶職人を務める者なり。しかし、彼の手に握られしハンマーは、やがて闇夜にて異なる音を奏で始めたり。人の血に飢え、狂気に飲まれしその魂は、神々をも震わせし暴虐の詩を刻むこととなるべし。
されど、最初より彼かくも狂いてはあらざりき。かつて彼は、心優しき者として村人より愛され、尊敬を集めたり。しかし、運命の残酷なる風は彼をも変え、その心に闇を撒いたり。村に蔓延する不治の病は、彼より愛する妻と幼き娘を奪い去り、絶望の淵へと彼を追いやりぬ。その日より、彼の魂は不帰の彼方へ旅立ち、彼の眼にはただ暗黒のみが映ることとなりぬ。
時が経つと、ユディトの心の奥底に眠りし憎悪と恨みは、狂気の芽を育て始めたり。彼の孤独と絶望は、血と暴力への欲望へと転じ、亡者を彷徨わせる悪しき鋳型となれり。夜ごとに、その家屋より奇怪なる音が響き、村人の間に不安が広がりぬ。されど、畏れと敬意の念より、誰ひとりとして彼の館へと足を踏み入れる者はなし。
ある夜、村にてひとりの若者が行方不明となりたり。村人らは集いて神々へ祈りを捧げ、若者の無事を願いぬ。されどその願いは空しく、若者は二度と戻らざることとなりき。その失踪の謎は、人々の心に不安と疑念を植え付け、そしてその影は日に日に濃くなり給い。ユディトの名は、次第に疑いの渦巻く中で囁かれ始めたり。
それより幾晩か過ぎし後のこと、村人らはまたも恐るべき報せを耳にせり。新たなる失踪者は、愛される若き娘の一人なるペルセフォネ。次第に恐怖は村を覆い尽くし、そしてある者らはついに決断せり。彼らはユディトの館へと押し入り、その背後に潜む真実を暴かんとせり。
館へと足を踏み入れし村人たちは、闇に潜む恐怖を目の当たりにせり。壁には血のように赤き文字で謎めいた言葉が刻まれ、空気は腐臭に満ち満ちていたり。そして彼らは地下室の扉を開け、そこで目にした光景こそ、まさに地獄のそれなりき。そこには無数の昏き影が横たわり、肉塊が果て無く積み重なり、まるで無限の屍の山を築かんばかりの凄まじき光景なり。
その奥には、狂気に憑かれしユディトが立ち尽くし、眼には狂乱の光を宿せり。村人たちは怒りと恐怖に駆られ、彼に迫りぬ。しかして、ユディトは凄絶なる咆哮と共に彼らに襲いかかりたり。もはや、彼の身は人の域を超えし力と狂気に満ち溢れ、村人たちを翻弄し、肉と血の饗宴を繰り広げ始めたり。
だが、ユディトが想像せざりしは、その狂気が物語の終わりを告げることなりき。彼の肉体は次第に崩壊を始め、神々の怒りの如くして村人たちが彼を取り巻き、終焉の時を迎えぬ。遂に、彼もまた人ならざる姿を成し、村人たちはその獣を打ち倒さんとす。ユディトの絶叫は、村全体に響き渡り、空もまた応えるように雷鳴轟き給う。
この夜、当の村は焼き尽くされたる後にただ静寂を保ちたり。村人たちは、破壊と恐怖の後に残った荒野を目の前にし、彼らが受けし試練を決して忘れぬことを誓いぬ。この地は、もはや人が住みし地とは成り得ぬ、忌まわしき地として記憶に残りぬ。神々の裁きの如く、彼らは教訓を得、二度と思い上がること無きを願い続けたり。
そして語り継がれるは、狂気に身を滅ぼされたユディトの魂を宿す地、この恐怖の黙示録なり。这一物語に秘められし警鐘は、古き教えとして語り継がれ、二度と忘れ去られぬよう、闇に埋もれし村にて永遠に響き続けるなり。
