消えゆく者たちの館

猟奇

森の奥深くにひっそりと佇む古びた洋館――そこにはかつて貴族の館があったと伝えられる。その館には、今では誰も住んでいないとされている。しかし、ある都市伝説に語られるのは、その場所に足を踏み入れた者たちが皆、姿を消したという噂だ。

ある日、好奇心旺盛な青年、広瀬がその館を訪れることに決めた。都市伝説など信じない広瀬にとって、それは単に退屈な日常からの逃避に過ぎなかった。しかし、彼が森を進むにつれて、空気が次第に重く、冷え冷えとしたものに変わっていくのを感じた。館に近づくにつれ、奇妙な感覚が彼を包み込んでいった。

館の扉は重厚で、まるで何十年も開かれたことがないかのように見えた。それでも、広瀬はその扉を押し開けることに成功した。内部は暗く、埃っぽい匂いが漂っていたが、何かが彼を奥へと誘っているように感じた。広瀬は懐中電灯を灯し、奥へと足を踏み入れた。

彼が進むにつれ、壁には古びた肖像画がいくつも掛けられていた。その顔はどれも苦悶に満ちており、見る者に不安を抱かせる。やがて彼は、館の奥にある広間にたどり着いた。そこには、巨大なテーブルが鎮座し、その上には何か黒い染みがこびりついていた。

広瀬がテーブルをよく見ると、それは長い年月を経て固まった血痕であることに気づいた。彼は一瞬、息を呑んだ。どうやらこの館の都市伝説は、一部ではなく事実だったのだ。逃げ出そうと後ずさったその瞬間、背後から微かな物音が聞こえた。振り返ると、そこには誰もいない。広瀬はそれを気のせいだと自分に言い聞かせ、先を進むことに決めた。

彼が階段を上がると、屋敷の中はさらに不気味な静けさに包まれていた。突如、彼の背後から何かが微かに動く音がした。広瀬は振り返るが、やはりそこには誰もいない。冷や汗が彼の顔を伝わって流れ落ちる。やがて広瀬は、ある一室の前で足を止めた。

その部屋には鍵が掛かっておらず、扉が半開きになっていた。ふと、中を覗き込むと、そこには古い拷問器具が収められていた。椅子には錆び付いた鋼鉄の拘束具が取り付けられており、壁には古びた鎖が垂れ下がっていた。それを見た瞬間、広瀬の背筋に冷たいものが走った。

部屋の中央にあるテーブルの上には、小さな箱が置かれていた。広瀬はそれを手に取ると、息を呑んで蓋を開けた。箱の中には人間の指と髪の毛が納められていた。指は切り落とされたままの状態で保存されており、その悪臭は顔を背けさせるほどだった。広瀬は、ここに住んでいた者がどんなに狂った人物だったのかを思い知らされた。

その瞬間、背後から冷たい風が吹き抜け、部屋の扉がゆっくりと閉じ始めた。広瀬の恐怖は頂点に達し、彼は一目散にその場を離れようと駆け出した。しかし、彼の足は思うように動かず、まるで何かに捕らえられたかのように制止された。広瀬は必死にその場から逃げ出そうとしたが、次第に意識が薄れていった。

彼の目の前に広がる視界が歪み、気が付くと、彼は再び広間に立っていた。しかし、今度はテーブルの周りに影が立ち並んでいた。その影たちの顔は彼にはっきりとは見えないが、一人一人が広瀬を見下ろし、何かを囁いているようだった。その声は広瀬の耳元で静かに、しかし確実に響いた。

「いらっしゃい……新しい家族がまた一人……」

広瀬は自分が何をされるのかを悟り、その場で声にならない叫び声を上げた。しかし、その声は誰にも届くことなく、影たちに包まれた彼に容赦はなかった。彼の意識は再び闇に沈み、もう二度とその館から出ることはなかった。

それからというもの、古びた洋館は次々と勇気ある者たちを引き寄せるが、誰一人として帰ってくる者はいなかった。館はただ静かに、ゆっくりと、狂気に染まった者たちを受け入れ続けている。そして、また一つ、偽りのない都市伝説が生まれるのだ。

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