森の魔女と湖の伝説

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むかしむかし、小さな村が山のふもとにありました。村の子どもたちは毎日、緑豊かな森で遊び回っていました。森の中には、色とりどりの花が咲き乱れていて、香りもとても甘く、まるでおとぎ話の世界のようでした。

その村には、エミリーという名の心優しい少女が住んでいました。エミリーはいつも笑顔で、友だちと一緒に遊ぶのが大好きでした。ある日、エミリーは親友のトムと共に、森の奥深くまで探検することにしました。ふたりは鳥のさえずりや風の音に耳を傾けながら、どんどんと森の奥へ進んでいきました。

やがて、ふたりは美しい湖のほとりにたどり着きました。それはまるで鏡のように静かで、周りの景色を映し出していました。「すごい!ここは天国みたいだ!」とトムが笑顔で叫びました。エミリーは湖の縁にひざをつき、水面に手を浸して遊びました。

しかし、その湖にはひとつの言い伝えがありました。湖の中央に浮かぶ小さな島には、かつて村から追放された魔女が住んでいると言われていました。村人たちはその島に近づくことを禁じていましたが、エミリーとトムはそんなことを知りませんでした。

夕暮れが近づくころ、ふたりは湖から離れ、元来た道を戻ろうとしました。しかし、不思議なことが起こりました。道はまるで生き物のように姿を変え、二人を引き戻すように森の奥へと誘いました。エミリーとトムは不安になりましたが、探検心がそれを上回り、さらに深く森へと入り込んでしまいました。

やがてふたりは、古びた小屋を見つけました。それはすっかり朽ち果てていましたが、かすかに煙が上がっているのが見えました。興味をそそられたふたりは、そっとその小屋に近づきました。

「こんにちは、誰かいますか?」とエミリーが声をかけました。その瞬間、小屋の扉が軋む音を立てて開き、おばあさんが姿を現しました。彼女は年老いて、優しげな笑顔を浮かべていました。「まあ、かわいい子たちね。おいで、お茶を飲んでいきなさい。」

エミリーとトムは安心して、小屋の中へと招かれました。おばあさんは心優しく、ふたりにハーブの香るお茶を振舞いました。しかし、その甘い香りの中には、何か得体の知れない不安が混ざっていました。

「この森にはとても美しいところがたくさんあるのよ。でもね、子どもたちが迷ってしまうこともあるから気をつけてね」とおばあさんは微笑みながら言いました。その言葉にエミリーとトムは頷きましたが、どこかしら胸騒ぎを感じていました。

やがて日が暮れ、おばあさんはふたりに言いました。「そろそろお家に帰りなさい。道が分からないなら、この道を真っ直ぐ進むといいわ。」そう言っておばあさんは、木でできた小さな彫刻をふたりに手渡しました。それは、不気味ながらも美しい、森の精の姿をしていました。

小屋を出た後、エミリーとトムは暗くなった森の中を進みました。しかし、進めば進むほど道は見えなくなり、どこか異次元に迷い込んだような感覚に襲われました。ふたりは不安でいっぱいでしたが、持たされた彫刻を手に、ただ真っ直ぐ歩き続けました。

やがて、森の中に不思議な光が見え始めました。それは、まるで人の形をした光でした。光の中からは、かすかなささやき声が聞こえました。「こちらへ、こちらへ」と。そのささやきを追うように進むと、そこには湖が広がっていました。しかしそれは、昼間見たものとはまったく異なるものでした。湖面は黒く、底なしの深淵のように見えました。

光は湖の上をふわりと漂い、エミリーとトムを誘うように近づいてきます。ふたりは引き寄せられるように、湖の端に立ちました。そのとき、手にした彫刻が激しく震え始めました。そして、湖面から現れた手がふたりを湖の中に引きずり込もうとしました。

エミリーとトムは必死で後ずさりし、駆け出しました。背後では、哀れな叫び声と共に光が消えていくのを感じました。ふたりは一目散に元来た道を駆け抜け、ついに村に戻ることができました。

村に帰ったエミリーとトムは、おばあさんの話を村人に伝えました。すると、村の長老が静かに言いました。「その湖は、いにしえの魔女の封印された場所。彼女はまだ湖の底で、迷える魂を狙っているのだ。」村人たちはその後、二度と湖に近づかないよう厳しく言い聞かせました。

それ以来、エミリーとトムはその不思議な森に行くことはなくなりました。しかし、ふたりの心には、ずっとあの夜の記憶が残っていました。それは、永遠に語り継がれる村の伝説となったのです。そしてそれは、ひとつの教訓を子どもたちに与え続けました。魅惑的な光や美しい場所はいくらでもあるけれど、その背後には、何か恐ろしいものが潜んでいるかもしれないということを。

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