村に潜む異次元の恐怖

異次元

先日、私の人生を変えてしまった出来事をお話ししようと思う。この話を信じてもらえるかどうかは分からないが、これは確かに私が体験したことだ。

数週間前、友人の健二から連絡があった。彼は、地方の山中にあるとある村に行ってみないかと誘ってきた。その村には昔から奇妙な噂が立ち込めており、時折無くなる人がいるとか、時間の流れが異なる場所があるとか言われていた。私は都市生活にうんざりしていたこともあり、この機会を面白い経験と捉えて承諾した。

私たちは週末を利用して、その村に向かうことにした。車を借り、早朝に出発した。道中、青々とした山々が続き、空気も澄んでいて、心地よい旅だった。しかし、村に近づくにつれ、何とも言えない不気味な雰囲気が漂い始めた。霧が濃くなり、辺りの景色をぼやかせている。地元民らしき人々はどこかよそよそしく、道を尋ねても言い淀むばかりだった。

ようやく村に到着したのは午後だった。独特の静けさがあり、鳥の鳴き声すら聞こえない。すぐに私たちは村を散策することにした。村は小さく、古びた木造の家々が並んでいる。どの家も人の気配がなく、まるで村全体が時間に取り残されたかのようだった。

村の中心に、古い神社が立っていた。健二は興味津々で、写真を撮り始めた。私は神社の前で立ち止まり、なぜか背筋に寒気を覚えた。何がそうさせたのか明確には分からないが、その場の空気が異様に重かったのだ。

その晩、私たちは村の唯一の宿に泊まることにした。宿の主人はどこか陰鬱で、私たちの訪問を歓迎しているとは到底思えない様子だった。夕食時、彼は注意深く、不自然なまでに私たちを監視しているように感じた。

夜半、健二が急にいなくなった。探しに行こうと村の外に出たが、辺りは真っ暗で、何も見えなかった。懐中電灯の光で道を照らすと、村の外縁に続く小道を見つけた。私は健二を追って道を進んだ。

霧が濃くなり、ライトの光が吸い込まれていくような感覚に陥った。すると、突然、小道が開け、異様な景色が現れたのだ。そこには、天空に届くほど巨大な何かがあった。それは建物でも山でもなく、どこか生物的な、不安定な形をしていた。形を捉えることが難しく、視線を向けるたびに違う姿に変わっていた。

その巨体からは低い音が響き渡り、一種の言語のように思えた。不思議とその意味が分かる気がした。何かを訴えているのだ。「帰れ、立ち去れ」と。それは、恐怖を超えた絶望感を私に植え付け、更に進むことを拒んでいた。

その時、健二の声が聞こえた。「ここだ」と。しかし、声の方向に向かうことができなかった。足が動かず、全身がその存在に縛られているようだった。私は声を振り払い、何とか身を引こうと努力した。

気づくと私は村の宿の部屋に戻っていた。朝日が窓から差し込んでいたが、何かが明らかに変わっていた。時間の感覚が狂っている。時計は朝の8時を指していたが、ただの一晩を体験した感覚ではなかった。

慌てて健二の部屋を見に行ったが、そこは空き部屋で、彼の荷物も何もなかった。主人に尋ねると、何故か知らないという。彼が存在した形跡まで消えていたのだ。私は即座に村を出ることを決心した。

山を下り、都市に戻ったものの、あの村での体験は夢ではない証拠が次々と現れた。体中に点在する青い痣や、時間の感覚の狂いが定期的に訪れ、そして何と言ってもあの巨体の記憶が頭を離れない。健二のことを警察に通報し、捜索を依頼したが、まだ何の手掛かりも得られていない。

今思えば、あの村での体験は現実と異次元が交錯する瞬間だったのかもしれない。あの巨体は何だったのか、なぜ私だけが戻ることができたのか。これを書いている今も理解できない。

私の体験が誰かの役に立てればと思う。どうか、あの村には近づかないでほしい。そこには、私たちの理解を超えた何かが確かに存在しているのだから。健二の行方と、この体験の意味を知るために、私はまだ追い続けている。だが、真実に近づくことが、またあの存在を目覚めさせるのではないかという恐怖が、私を縛り続けている。

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