木戸村の忌まわしい奇習と消えたジャーナリスト

風習

深い山奥にある小さな村、木戸村には、外部との接触を拒むような独特の風習が存在していました。その村には、高い山々に囲まれ、時間が止まったかのような静寂と異様な雰囲気が漂っていました。一方で、私は失踪した友人を探すため、その村を訪れることになったのです。

友人の名は、吉田一郎。大学時代の同級生で、現在はフリーのジャーナリストをしている彼は、「閉ざされた村の奇習」というテーマに魅せられ、取材を続けていました。彼が最後に向かった場所、それがこの木戸村でした。彼からの最後のメッセージは、「村の奇習について、少し掴んだ。これが最後のメールになるかもしれない」という何とも不吉なものだったのです。

村の入口にたどり着いた私を待っていたのは、古びた看板に記された「歓迎 立ち入り禁止」の文字でした。それを無視して村に入ると、すぐに違和感を覚えました。村の様子は何かしら異質で、空気そのものが重く、胸騒ぎを感じずにはいられませんでした。

山間の細い道を抜けると、一群の家々が見え始めました。ただし、ふと気づくと通りに人影はほとんど見当たらず、たまに見かける村人たちはみな目を伏せ、足早に通り過ぎていきます。何かを言いたげにも見えた彼らですが、私と目を合わせることはなく、ただ黙っていました。

しばらく歩を進めたところで、ようやく一人の年配の男性と出会いました。彼の名は、山本というらしく、どうやらこの村で一位の長老的な存在のようでした。彼に吉田のことを尋ねると、「もう帰った」との返答。確かに、吉田の行方が分からないままだったらしいですが、私はそれが信じられませんでした。

もう少し詳しく話を聞きたい、と私が言うと、山本はふと顔を曇らせ、「あまり深入りしない方がいい」と一言。村は何か隠している、それが強く感じられました。それでも、彼がどこに泊まるつもりかと訊ねられ、村にある古びた宿へ案内してもらいました。

宿の老婆は、私を迎え入れると、「よそ者が来るのは久しぶりだ」と微笑んで迎えてくれました。部屋に案内された後、私は部屋で吉田の足取りを必死に考え、手がかりを求めて村をもう一度歩くことにしました。

宿を出てすぐ、村の中心に立ち並ぶ石碑群の前で何か儀式のようなものが行われているのを見かけました。村人たちは声を出さずに立ち尽くしており、その中央には奇妙な形をした木彫りの像が安置されていました。そこに何か深い意味があるようでしたが、村人に近づくことはできませんでした。

翌朝、私は何としてもその儀式の意図を解明するために、再び村を歩き回りました。すると、ある家の扉が微かに開いており、中から少年が手招きしていたのです。彼によれば、石像は「災いを封じるためのもの」であり、「村にはずっと昔から封じられた良からぬものがある」と聞かされました。

少しずつ、私の中で一つの仮説が生まれてきました。この村の奇習は、何か恐ろしい過去の出来事に関連するものであり、その根底には忌まわしい事柄が隠されているに違いない、と。

その夜、宿の屋根裏から何か足音のような音が聞こえてきました。不安を感じつつも、私は音の正体を確かめるために、ゆっくりと屋根裏へと向かいました。そして見たのは、埃まみれになった何冊もの古文書。それこそが、この村の風習のルーツを記録したものでした。

古文書には、村に伝わる忌まわしい儀式と、それが何世代にもわたる犠牲を強いるものであること、そして、それを受け入れた者には村を襲う不可解な災害や病を回避できると信じられていることが記されていました。村はそれによって閉鎖的になり、外の世界と断絶することで、この秘密を守ろうとしているのです。

翌朝、私は村を離れる決意をしました。情報を集めたところで、吉田の行方を知ることはできなかったものの、村が何か恐ろしいものを抱えていることは分かりました。私が最後に山本に再び会い、村を離れることを告げると、彼はわずかに微笑み、「この村のことは忘れた方がいい。吉田も戻ってこないだろう」と言い放ちました。

私が村を出てしばらくすると、背後から聞こえてきたのは、まるで静謐な山々に吸い込まれていくかのような、静かな祭の響き。それは、決して理解できない異質な音楽でした。振り返ることなく、私はその音を背に歩き続けました。

都市に戻り、冷静に考えてみると、あの村での一連の出来事は、現実離れしているようにも思えました。しかし、あの奇妙な儀式の場に確かに一度は存在した吉田の姿が、脳裏から消えることはありません。彼がもし、村の隠された「祭」や「儀式」に関わり、そこに飲み込まれてしまったとしたら。

結局、理屈で割り切れない何かが、未だに私の心に闇を落とし続けています。木戸村で見聞きしたことは、決して偶然ではなく、村の底知れぬ恐怖が時折その姿を現すための理由だったのではないかと、夜な夜な思いを巡らせるのです。理屈を超えた恐怖が、この世には確かに存在するのでしょうが、その答えを私は今だ見つけ出せずにいるのです。

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