私は普通の会社員だ。特に変わったこともなく、日々の仕事と小さな楽しみを織り交ぜながら平凡な生活を送っている。そんな私が、ある日、何の前触れもなく恐怖に巻き込まれることになるとは、夢にも思わなかった。これは、私が実際に体験した、日常の隙間に忍び寄る恐怖の話だ。
最初の兆候は、いつものようにSNSをチェックしている時だった。見知らぬアカウントからフォローリクエストがきた。それ自体はよくあることで、普段なら気にも留めない。しかし、そのアカウント名は、私の古い友人のあだ名だった。それだけなら偶然で済ませられる。でも、アイコンには彼女が20歳ころに撮った懐かしい写真が使われていた。彼女とは数年前に連絡が取れなくなって以来、消息は不明だった。
「お久しぶり!元気にしてる?」そうメッセージが届いた。最初、軽い驚きと共に懐かしさがこみ上げてきた。彼女との思い出が次々によみがえってきた。私たちは大学時代、本当に仲が良く、いつもつるんでいた。彼女の生活が忙しくなって疎遠になったが、こうしてまた繋がることができるなんて思ってもみなかった。
数日間、私たちは過去の思い出話や最近の出来事について語り合った。しかし、彼女は自分の今のことについてはあまり語ろうとしない。少し不自然だと感じつつも、深く詮索するのはやめた。無理に引き出そうとすることで、再び繋がった関係が壊れるのが怖かったからだ。
数週間が経った頃、突如として様子が一変した。彼女から送られてくるメッセージの内容が少しずつ不穏になっていったのだ。私の家の近くで撮られた写真が送られてきたり、仕事帰りのルートに関して詳細な質問をしてきたりする。「最近、会社帰りによく立ち寄るカフェ、素敵だね」と、誰にも知らせていない私の習慣を知っているかのような発言に背筋が凍った。
不安が押し寄せてくる。私は彼女について調べ直すことにした。しかし、どれだけ調べても彼女の現在に関する情報は見つからない。どうやらSNSアカウントも完全に消されているらしい。そして、冷静になって考えてみると、私が知っていた彼女の情報は、誰かにとっては容易に手に入るものばかりだったことに気づいた。
ある夜、自宅で一人過ごしていると、玄関のドアにノックが聞こえた。こんな時間に来訪者なんてあるはずがない。私はドアスコープを覗き込んだが、誰もいない。しかし、その瞬間、背後で何かが動く気配がした。恐怖で体が凍りついた。部屋を見渡すと、窓の外に人影がちらつくのが見えた。
恐ろしくなり、私は一切動けなかった。何者かが私の生活を監視しているのは確実だった。翌朝、警察に相談しようと決意したが、また不思議なメッセージが届いた。「警察には言わない方がいいよ。もっと面倒なことになるから」と。その一言に、背筋が冷たくなった。
誰も信用できないと思った。恐怖と不安で毎夜眠れなくなり、日常生活に影響を及ぼすようになった。しかし、恐怖に屈するわけにはいかない。私は意を決して、最寄りの警察署に足を運んだ。事情を説明したが、証拠がない以上、実際に動くのは難しいと言われた。
その後も何週間か長い夜を過ごしたが、どうにか不安定な日常を立て直そうと努力した。次第にメッセージは来なくなり、不気味な気配も消えた。しかし、その恐怖は未だに私の心の中でくすぶり続けている。
今では、身の回りの人々に知られたくない情報は決してSNSに載せないようにしている。常に細心の注意を払い、個人情報が漏れないよう心掛けている。しかし、あの影の主が再び現れるのではないかという不安は完全に消えることはない。
この経験を通じて、私たちの日常がどれだけ脆弱かを痛感した。他人事と思っていたSNSでの交流や情報の取り扱いが、自分自身に向けられるとこれほど恐ろしいものになるとは思いもよらなかった。これは私が実際に経験した恐怖の物語であり、聞いてくれたあなたにも、少しでも日常の隙間を見直すきっかけになればと思う。