ある日、俺はいつものようにインターネット掲示板を見ていた。特に何か目的があったわけじゃなく、ただ暇つぶしに面白いスレッドを探していたんだ。その日はなんとなくオカルト板を見ていた。怖い話のスレはたくさんあるけど、そのうちの一つに目がとまったんだ。
そのスレッドのタイトルは「消えた友人を探しています」。興味を引かれてスレを開くと、最初の書き込みにはこう書かれていた。
「去年の夏、俺の友人が失踪した。名前はY。俺と同じ大学に通っていた。ある日突然、彼からの連絡が途絶えたんだ。警察にも届け出たけれど、結局何もわからないまま時間だけが過ぎていった。最近になって、彼のアカウントがネット上で活動しているような痕跡を見つけたんだ。だから、何か知っている人がいたら教えてくれ。」
この書き込みをしたのはKという人物だった。特に何か大きな展開を期待していたわけではないけれど、俺は何故かこのスレに深い興味を持ってしまったんだ。その日はそのまま寝落ちしたけど、翌日にまたスレを確認してみると、幾つかの返信がついていた。
返信の中には「おそらく成りすましだろう」とか「去年からずっと継続して探しているなんてすごいね」なんて冷淡なものもあったが、一つだけ気になる返信があった。
「Yと同じ大学の者です。もし君がKなら、Yの最後の目撃情報を知ってるか?」
Kもすぐに反応していた。「最後に見たのは大学の図書館。帰る前に一緒に勉強していたけれど、その後は見ていない」と。
ここからスレは急に盛り上がりを見せ始めた。複数の匿名のユーザーが「図書館に変な噂がある」と書き込み始めたんだ。
「6時過ぎに図書館の中を歩くと、足音以外の音もしない時間帯があるらしい。その時に誰かの視線を感じるという噂がある。Yもその時間帯にいたんじゃないか?」
その書き込みを読んで、俺は少しぞっとした。ただの噂だと思っていたが、これだけ同じ大学の人間が同じようなことを言っているのは、少し気味が悪かった。
その後、Kはその噂が本当かどうか確かめるために自ら図書館に向かう決心をしたようだった。スレッドにはリアルタイムでKの行動が更新されるようになり、まるで実況中継を見ているかのような感覚に陥った。
「今、図書館に着いた。まだ人がいるからしばらく待機する。なんだか今日の図書館は普段と違って静かに感じる。少し不気味だけど、なんとかやってみる。」
「今、一人になった。変な話、6時を回ってから急に誰もいなくなった。あれ、これって本当に6時過ぎに何かあるのか?」
「今、足音を確かめながら歩いている。なんだけど、急に音が消えた。これはなんなんだよ……。さっきから視線を感じるけど、気のせいなのか?」
Kの実況は次第に緊張感を増していった。掲示板のBGMのように、俺の期待もぐるぐると高まってきた。
「おかしい。Yの声が聞こえる気がする。笑ってる……。こんなはずは……俺、ちょっと待って、何かおかしい……。」
その瞬間、Kの更新は途絶えた。それを見ていた俺を含む他のユーザーたちは様々な書き込みを始めた。「何があったんだ?」、「大丈夫か?」、「ふざけてるならやめろよ」といった様々な声が飛び交った。
しかし、Kからの反応はなく、そのまま一晩が過ぎていった。翌朝、スレッドを確認してみたが、Kからの更新は何もなかった。どこかに無事でいてくれたらと願うばかりだった。
それから数日、何の音沙汰もなくスレは次第にフェードアウトしていき、俺も関心を失いつつあった。しかし、一週間後に再びスレが活気を取り戻す出来事が起きた。Kが戻ってきたのだ。
「ごめん、しばらくスレに投稿できなかった。」
その書き込みを見た時、俺は心底安心した。Kは無事だったんだ。ただ、彼の様子は少しおかしかった。彼の書き込みは不自然に短く、どこか急いでいるような印象を受けた。
「皆、ありがとう。だた、Yの件に関してはもういい。もう探す必要はないんだ。」とだけ書かれていた。
それ以降、Kからの書き込みはなく、スレッドはまるで用済みになったかのようにまた静かになった。しかし、俺はそこに何か隠された意味があるような気がしてならなかった。
ある夜、無性にあのスレッドが気になってもう一度確認してみたんだ。すると最後のKの書き込みが「編集」されていた。「探す必要はない」から「探してはいけない」に変えられていた。
それを見た瞬間、背筋が凍るような恐怖に襲われた。俺はすぐにブラウザを閉じて、その日は何も手に付かなかった。
その後、俺は二度とその掲示板を開くことはなかった。あの掲示板で何が起こったのか、KとYに何があったのか、真実を知ることはなかったけれど、あれ以来ずっと心のどこかで、あの消えた友人たちのことが気になっている。
皆も、もしネットで「消えた友人を探しています」というスレッドを見つけたら、深入りしないことをお勧めするよ。何かが分かったとしても、それはきっと知りたくない真実だから。