恐怖のタクシー体験と怪異の予兆

都市伝説

――それは、もうずいぶん前のある夜のことでした。私がその話を初めて聞いたのは、友人Aからの電話でのことでした。Aとは、学生時代からの付き合いで、彼女の語る話にはいつも不思議な魅力があります。今回も、彼女は興奮した様子で話を始めました。

「ねえ、聞いたことある? B子の友達の、Cさんの体験談なんだけど…」Aは少しためらうように言葉を選びながら続けました。

Cさんはある地方都市に住む、普通のOLです。彼女は普段は都会の喧騒から離れた静かな街で平穏に暮らしていました。しかし、その夜、彼女はいつもとは少し違う経験をすることになりました。

その日は、仕事が終わったあと、同僚の誘いで夜遅くまで飲んでいました。終電を逃したCさんは、結局タクシーで帰ることにしました。タクシーは彼女の住むアパートへと向かい、深夜にもかかわらず街にはまだ残業や飲み会帰りの人々が歩いていました。そんな中、タクシーの運転手は何か不自然な様子でした。彼は何度もバックミラー越しにCさんを見つめているのです。

「何かご用ですか?」Cさんがそう尋ねると、その運転手は真剣な声で答えました。「すみません、あまり気にしないでください。こういうのは言わない方がいいんですけど、気になるので…何か感じませんか?」

Cさんは驚きつつも、「何も感じませんけど…」と答えました。それでも、運転手は続けて、「いや、最近この辺りで変な噂があるんです。タクシーの車内で突然誰もいないはずの後部座席から声がするって…」

その話を聞いて、Cさんはただの作り話だと思い、少し笑ってしまいました。しかし、運転手は真面目な顔を崩さず、「後で確認してみてください、あなたの荷物も…念のため」と言いました。

アパートに着くと、Cさんは少し薄気味悪さを感じつつも、運転手への礼を言い、料金を支払って降りました。家に入ると、すぐにお風呂を準備し、なんとかその気味の悪いことを忘れようとしました。

その夜、Cさんは深い眠りに落ちました。しかし、夜更けに突然目が覚めました。部屋の中は静かで、窓から差し込む月明かりだけがわずかに部屋を照らしていました。なぜこんな時間に目が覚めたのか、自分でもわかりませんでした。

ふと、部屋の隅に視線を向けると、普段は机の上に置いたままのカバンが、妙にキレイに整理されていることに気づきました。まるで誰かが勝手に触ったかのように…。

そのとき、彼女は運転手が言った言葉を思い出しました。「あなたの荷物も…念のため」

無性に怖くなったCさんは、布団をかぶり直し、とにかく朝が来るのを待とうとしました。

翌朝、Cさんはできる限りの冷静さを保ちながら、昨日の出来事を思い出し、家の中を確認しました。しかし特に異常はなく、荷物の中身も無事でした。ただ、机の上の手帳に覚えのない書き込みがありました。字は乱雑で、内容は意味不明でしたが、引っかかるモノがありました。

「注意 後ろにいる」

その日のCさんは終日落ち着かず、会社では同僚に「どうしたの?」と心配されるほどでした。夜になると、恐怖と不安が再び心を締め付けました。彼女のアパートで過ごす夜が、だんだんと耐えられないものになっていったのです。

最後にAが教えてくれたのは、これ以上のことはわからないということでした。Cさんはその後、近くの実家に戻ることにしたそうです。彼女は誰かが後ろにいる、という感覚から逃れるために、しばらくそのアパートには戻らないことに決めたとのこと。

私がこの話を最初に聞いたとき、最初は誰でも一度は体験しそうな、不気味な作り話だと思いました。しかし、友人Aの真剣な話しぶりを聞いているうちに、これは本当にあった出来事かもしれないと考えるようになりました。もしかすると、あなたのすぐ近くでも、こんな不思議な体験をしている人がいるのかもしれません。

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