恐怖のキャンプ体験と未解決事件

猟奇

ある日のことだった。友人の太郎が、一緒にキャンプに行かないかと誘ってきた。悩んだ末、僕はその誘いを受けることにした。都会の喧騒から離れ、自然の中でのんびり過ごすのも悪くないと思ったからだ。集合場所は、一軒家の前。そこから車で湖の近くにあるキャンプ場まで向かうことになっていた。

キャンプ当日、太郎と僕の他に、彼の友人の鈴木と石田も来ていた。4人で車に乗り込み、和やかな雰囲気の中、キャンプ場へと向かった。途中、山道を進むにつれて電波が届かなくなり、やがて完全に圏外になった。スマホに慣れた生活では少し不安に感じたが、これもまた非日常の一部だと自分に言い聞かせた。

キャンプ場は広く、人影も少なかった。僕たちはテントを設営し、それぞれの役割分担を決めた。僕は料理を担当し、太郎はたき火の準備、鈴木と石田は薪拾いや場内のチェックをすることになった。夜になるころ、たき火の明かりの下で肩を並べ、僕たちはそれぞれの話に花を咲かせていた。

その時、ふと太郎が話し始めた。「この辺りには昔、猟奇的な殺人事件があったらしい。犯人は未だに捕まってないんだと。」彼の話によると、20年前、近くの村で一家4人が惨殺された事件があったらしい。特に子どもたちの遺体はひどい状態で、事件現場には不気味な模様が血で描かれていたという。

その話を聞いて、僕は何だか背筋が寒くなった。しかし、無邪気にはしゃぐ仲間たちの姿を見ていると、すぐにその感覚も薄れていった。酒が進むに連れて、次第に僕たちは眠気に襲われ、それぞれのテントに入っていった。

夜中、何度か目を覚ました。テントの外で何かが動いているような気配がしたからだ。風の音だと思おうとしたが、どうしてもそれだけとは思えなかった。しかし、酔いが回っていたこともあり、結局眠りについた。

翌朝、僕が目覚めると、テントの周りには奇妙な模様が描かれていた。血のような赤い色で、複雑な線が絡み合い、何を意味しているのか全くわからなかった。仲間たちを起こし、全員がその模様を見て顔をしかめた。誰も何も言わず、その不気味さにただ立ち尽くすことしかできなかった。

その日の午後、鈴木が突然姿を消した。キャンプ場を探し回ったが、どこにも彼の姿はなかった。先ほどまでそこにいたはずの彼が忽然と消えた。僕たちは警察を呼ぼうとしたが、圏外のため、どうすることもできない。仕方なく、鈴木が戻ってくることを期待して、その場で待つことにした。

夜が更ける頃、再び僕たちはたき火を囲んで座っていた。3人とも鈴木のことが気がかりで、言葉少なだった。ふいに、石田が「俺、ここに来る前に変な夢を見たんだ」と口を開いた。夢の中で、彼は見知らぬ場所に立っていて、何者かが彼を呼ぶ声がしたらしい。その声は次第に近づいてきて、振り返ると血まみれの顔があったという。

声がだんだん切迫したものになってきた時、突然太郎が「誰か来てる」と言って立ち上がった。僕たちも耳を澄ませると、何かが歩いている物音が聞こえた。それは確かに人の足音で、しかも微かではあるが複数のようだった。

恐怖で身動きが取れないまま、僕たちはその場に立ち尽くしていた。音は次第に近づいてきて、気づけば真っ暗な闇の中から何者かの姿が浮かび上がった。そして、僕たちが立ち尽くすたき火の明かりの外で、何人かがこちらを見ているのが分かった。それは鈴木だった。

「鈴木……?」石田が震える声で彼の名前を呼んだ。すると鈴木がこちらに向かって歩み出た。しかし、その様子はどこかおかしかった。動きが硬く、何かに操られているかのようだった。さらに近づいてくると、鈴木の顔や服は血だらけで、恐ろしく歪んだ笑みを浮かべていることに気づいた。

僕たちは一斉に後ずさりし、太郎がとっさに鈴木を止めようと声をかけた。「鈴木、何があったんだ!」すると、鈴木は手に持っていたナイフを上げ、狂ったように叫びながら僕たちに向かってきた。

僕たちは叫び声とともに散らばり、必死に走った。背後からは鈴木の狂気じみた声が聞こえ、どこに逃げるべきかも分からず闇雲に走った。間もなく、鈴木以外のもう一つの気配が背後から追いかけてくるのを感じ、視線を走らせた。そこには、真っ黒な何者かがこちらを見据えていた。

自分の体が冷たくなっていくのを感じながら、僕は全力で走り続けた。しかし、恐怖で体が思うように動かず、夜の森は無限のように広がっていた。どこまで走ったのか、突然足がもつれて転び、顔から地面に倒れ込んだ。

いつの間にか意識を失っていたらしい。目を覚ましたときには、僕は病院のベッドに横たわっていた。どうやら発見された時には衰弱が酷かったらしく、意識が戻るまでに数日を要した。

あのキャンプ場で一体何が起こったのか、未だに僕には理解できない。警察の調べによると、あの事件以来キャンプ場周辺で奇妙な模様は見つかっておらず、また、鈴木の行方も依然として分からないままだという。あの夜の記憶は、夢なのか現実なのか、今でもはっきりしないが、あの恐怖だけは生々しく刻み込まれている。

太郎と石田も無事に発見されたが、あの体験以来、拒絶するようにキャンプや山への訪問を避けている。今でも、夜にふとあの時の追いかけてくる恐怖を思い出し、全身が凍りつくような気持ちに襲われる。

一つだけはっきりと分かっているのは、あの場所には何かがいる。そして、たぶん今もどこかで、鈴木はその何かによって苛まれているのかもしれない。僕はもう二度と、あの山には近づけないだろうし、これからもずっと、そのことを心の奥底に封じ込めて生きていくだろう。

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